欧米の言語はなぜ繰り返しが多く、くどいのか?
実はこれはなかなかいい線をいっていた。最近調べたところ、認知心理学が専門である米タフツ大学のメアリアン・ウルフ教授によると、表音文字を使う英語の場合は使われるのは頭の後ろの左側から耳の上にかけてであり、表意文字の中国語の場合は頭の左側と同時に右側の後ろから耳の上あたりも使われるという。
したがって日本語は、漢字を読むときは中国語に近いルート、カナを読むときは英語に近いルートと、英語と中国語の混合型となる。
先のドイツ人著者はこう話してくれた。つい何度も同じ内容を文章で繰り返してしまうのは、そうしないと読者が忘れてしまうのではないかと思うからだ、と。
「日本の読者はそんなことはないんですか?」と聞かれたので、先の自論を展開したところ、「きっと日本人のほうが、頭がいいんですね」と笑いながらも、日本語についても少し知識のある彼は、「なるほど」とうなずいた(チャンスとばかり、次作をカットする許可もしっかりもらっておいた)。
その他、高文脈(ハイコンテクスト)文化・低文脈(ローコンテクスト)文化の観点からも、なぜ欧米言語では同じ内容の文章が何度も繰り返されるのかについて付言したいことがあるが、それこそくどくなりそうなので、それはまたの機会としたい。
【参考記事】外国語が上手いかどうかは顔で決まる?──大坂なおみとカズオ・イシグロと早見優
[筆者]
平野卿子
翻訳家。お茶の水女子大学卒業後、ドイツ・テュービンゲン大学留学。訳書に『敏感すぎるあなたへ――緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』(CCCメディアハウス)、『ネオナチの少女』(筑摩書房)、『キャプテン・ブルーベアの13と1/2の人生』(河出書房新社、2006年レッシング・ドイツ連邦共和国翻訳賞受賞)など多数。著書に『肌断食――スキンケア、やめました』(河出書房新社)がある。