最新記事

私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】

情熱と衝動とアニメ愛、日本で声優の夢をかなえた中国人・劉セイラ

2020年2月14日(金)11時35分
高口康太(ジャーナリスト)

magSR20200214chinese-seiraliu-2.jpg

アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』やゲーム『THE KING OF FIGHTERS XIV』など活躍の場を広げている MAKOTO ISHIDA FOR NEWSWEEK JAPAN; HAIR AND MAKEUP BY YUKI OMORI

「成績はトップになった。でも、国費留学の選抜は成績だけじゃなく総合点だった。寮の自室をきれいに整理整頓しているか、クラスでリーダーシップを発揮したか......とか。勉強に必死で掃除なんて全然やっていなかったので、その話を聞いてがっくり。最初に言ってよ! 必死に掃除したのに! まあ、調べていない私が悪いんだけれど。

国費留学生には選ばれなかったけれど、ほかに一部自費での留学プランもあった。それでも、当時の中国の物価からしたら結構な金額。とても許してもらえないだろうと思ったけど、泣きながら父に頼み込んだら認めてくれた。うちは別にお金持ちじゃないのに。娘の望むように人生を歩ませてやりたいという、中国の価値観からすると奇特な父親と見られるだろうけれど、本当に感謝している」

インタビューを始めてはや1時間、声優になるどころかまだ日本に着いてもいない。ドタバタが続くが、これもまた「中国人が日本の声優になる」という道なき道を進む険しさなのだろう。

「日本ではカルチャーショックの連続だった。日本と言えば至る所にアニメイトがあって......とオタク的な発想しかなかったけど、現実は名古屋近郊の田舎にある大学だった。空港から学校に向かうバスに揺られながら、どこに向かってるんだろう、身売りされちゃうんじゃないかとドキドキしていた(笑)。

その大学には2年生の後半から10カ月間在籍したが、結構つらい時期で。憧れの国・日本にたどり着いたはいいが、いろいろと現実を知ってしまった。(『鋼の錬金術師』の声優)朴璐美さんが日本語ネイティブだと知ったのもその1つ。声優の道の難しさもよく分かった。

声優の専門学校はたくさんあるけれど、留学ビザが取れない学校ばかり。当時は声優を目指す外国人なんて前例がないですもんね。ああ、もうダメだと諦めかけたが、お世話になった愛知文教大学の川田健先生が調べてくれて、日本工学院の声優・演劇科ならば留学ビザが出ると分かった。本当に恩師だと思っている。

短期留学を終えて北京に戻った後、出願を進めて、日本工学院が受け入れてくれることになった。ただし面接を受ける必要があると。これが大変だった。今なら個人観光ビザを取って日本に行くのは簡単。でも2008年当時、一般人はツアーでしか行けなくて。

まさか東京ツアーに参加して抜け出すわけにもいかないし、どうしようと思っていたところにラッキーな話があった。日中国交正常化35周年を記念した日中青少年歌合戦!

北京からは予選を勝ち抜いた3人が東京の本戦に出場できる。これは運命だ、絶対に勝てる!と思ったし、実際そうなった。東京で本戦に出場した後、日本工学院の先生に面接してもらった」

アクロバティックな解決策で難関をくぐり抜けるのは、まるでアニメのような展開だ。だが難関はまだ続く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中