最新記事

私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】

情熱と衝動とアニメ愛、日本で声優の夢をかなえた中国人・劉セイラ

2020年2月14日(金)11時35分
高口康太(ジャーナリスト)

MAKOTO ISHIDA FOR NEWSWEEK JAPAN; HAIR AND MAKEUP BY YUKI OMORI

<大学から日本語を学び始めた中国人が、数多の困難を乗り越え、日本でプロの声優として活躍している。子供の頃に好きだったのは『幽☆遊☆白書』や『らんま1/2』。高校生のときに『鋼の錬金術師』に出合い、人生が変わった>

※本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集より

「俺は今、猛烈に燃えている!」
20200204issue_cover200.jpg
そう叫ぶと、言葉通り瞳に炎が燃え始める――往年の名作『巨人の星』が初出と聞くが、昭和の熱血少年アニメにありそうな場面だ。今やギャグでしか使われなそうな演出だが、目の前に座る小柄な女性声優はまさに目から炎を噴き出さんとする勢いで、情熱と衝動に突き動かされてきた半生を語り始めた。

劉(りゅう)セイラは北京出身の声優。東京の声優事務所、青二プロダクションに所属して今年で9年目になる。

「子供の頃は、声優じゃなく漫画家になりたかった。日本の漫画が大好きで。特に『幽☆遊☆白書』や『らんま1/2』に夢中だったことを覚えている。

当時、北京には日本の漫画を掲せる雑誌が何誌もあって、その1つの『北京卡通』(北京カートゥーン)が開いていた漫画家養成ワークショップに、小学生のときに親に無理を言って参加させてもらった。周りは社会人とか大人ばかりだったけど。中国は受験地獄の国なので、子供を漫画の勉強に送り出す親なんて他にいないですよね(笑)」

マシンガントークで話し続ける劉。スピードはどんどん上がっていく。

「ずっと漫画家志望だった自分を変えたのが、高校3年生で出合ったアニメ『鋼の錬金術師』。日本語が分からないのに声優の演技に感動した。スタッフロールを見ると主演声優の名前は朴璐美(ぱく・ろみ)さん。外国人なのに主演できるんだ、じゃあ私にもできると思って、将来の夢を声優に決めた。まあ、この決断は勘違いのたまものだったんだけど(笑)」

まずは日本語を学ばなければと2004年、北京外国語大学日本語学科に入学する。

「高校の成績は結構よかったので、専攻さえ選ばなければもっと上のランクの大学も狙えるのにと先生に怒られた。中国は学歴命だから、専攻そっちのけで大学の名前だけで選ぶ人のほうが多いけれど、私は日本語学科以外は嫌だった。

入学してからは大変。こっちは50音からスタートだっていうのに、同級生の3分の1は既に何年も日本語を勉強してきた人たち。最初の2年で彼らを抜かさないと駄目だったので、死ぬ気で勉強した。なぜかというと、優秀な学生には国費留学プランがあったから! 自腹で日本留学なんて無理だから、無料で行くしかないと決めていた」

ところが思わぬ落とし穴。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済活動、ほぼ変化なし 雇用減速・物価は緩やかに

ワールド

米移民当局、レビット報道官の親戚女性を拘束 不法滞

ビジネス

米ホワイトハウス近辺で銃撃、州兵2人重体か トラン

ビジネス

NY外為市場=円下落、日銀利上げ観測受けた買い細る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中