外国語映画初のアカデミー作品賞受賞『パラサイト』 ポン・ジュノの栄光を支えた二人の翻訳者とは
韓国文化を見事に英語化した字幕翻訳家
もう一人、素晴らしい功労者といえば、この映画を英語翻訳したダーシー・パケット(Darcy Paquet)さんだろう。今回アカデミー脚本賞を受賞できたのは彼の素晴らしい翻訳力のおかげでもあるはずだ。パケットさんは、韓国に20年以上も在住しているアメリカ出身の英語字幕家であり、映画の評論家でもある。
この『パラサイト』は、細かなブラックジョークセンスが光る作品だ。これをキャッチできなければ面白さが半減してしまう。パケットさんは細かな部分をより伝えやすいように翻訳している。例えば、劇中に出てくる「ソウル大学」は、韓国では言わずと知れた超一流名門大学だが、海外の人たちからするとその意味が伝わりにくい。そこで、パケットさんは「オックスフォード大学」に書き換えた。
また、金持ち社長の子供のために大急ぎで食事を作るシーンで登場するインスタント麺料理「ジャパグリ」は、韓国人ならおなじみのカスタム・ジャンクフードだ。韓国のコンビニならどこででも購入可能な「ジャパゲティ」(ジャージャー麺)と「ノグリ」(ラーメン)の2種類のインスタント麺を混ぜて作る。
2013年韓国MBCの人気テレビ番組『お父さんどこ行くの?』で放送されて以来、真似をして作る人が増え爆発的人気を得た。しかし、世界ではこの「ジャパグリ」と言う単語が理解しにくいため、パケットさんは外国人にも知られているラーメンとうどんを足して「RamDong」と言う造語を作り代用した。
余談だが、今回パラサイトで「ジャパグリ」の知名度は世界規模になり、販売元である農心は、早速自社のYouTubeチャンネルで12カ国語字幕付き調理法動画を配信をした。映画を見てあの味が気になった人はぜひトライしてみてほしい。
また、パラサイトから誕生した意外な流行と言えば「ジェシカソング」だ。金持ちの家を訪問する際、架空の人物ジェシカのプロフィールを忘れないよう覚えるために登場人物が歌を作って口ずさむシーンである。
アメリカでパラサイトを鑑賞した筆者は、アメリカ人観客がここで爆笑するのを見て驚いた。日本や韓国では暗記するため語呂合わせなどで節をつけて歌ったりする。それがアメリカ人には新鮮に映ったようだ。今まで外国人には分かりにくいと思われてきた風習や、何気ない習慣などもこれからはその国の映画を作るうえでの強みとなるかもしれない。
パラサイトの北米配給権を所有している配給会社NEONは、特別映像として劇中歌っている女優が登場する「パク・ソダムが教えるジェシカソング」という動画を配信して注目を集めた。その後、この歌詞の英語版"Jessica、Only child、Illinois、Chicago"とかかれたTシャツやマグカップまで登場している。