最新記事

映画

外国語映画初のアカデミー作品賞受賞『パラサイト』 ポン・ジュノの栄光を支えた二人の翻訳者とは

2020年2月12日(水)12時30分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

韓国文化を見事に英語化した字幕翻訳家

newsweek_20200212_123504.jpg

『パラサイト』の他にも『グエムル』『タクシー運転手』など数多くの韓国映画の英語翻訳を手掛けているダーシー・パケット。 크랩 KLAB / YouTube

もう一人、素晴らしい功労者といえば、この映画を英語翻訳したダーシー・パケット(Darcy Paquet)さんだろう。今回アカデミー脚本賞を受賞できたのは彼の素晴らしい翻訳力のおかげでもあるはずだ。パケットさんは、韓国に20年以上も在住しているアメリカ出身の英語字幕家であり、映画の評論家でもある。

この『パラサイト』は、細かなブラックジョークセンスが光る作品だ。これをキャッチできなければ面白さが半減してしまう。パケットさんは細かな部分をより伝えやすいように翻訳している。例えば、劇中に出てくる「ソウル大学」は、韓国では言わずと知れた超一流名門大学だが、海外の人たちからするとその意味が伝わりにくい。そこで、パケットさんは「オックスフォード大学」に書き換えた。

また、金持ち社長の子供のために大急ぎで食事を作るシーンで登場するインスタント麺料理「ジャパグリ」は、韓国人ならおなじみのカスタム・ジャンクフードだ。韓国のコンビニならどこででも購入可能な「ジャパゲティ」(ジャージャー麺)と「ノグリ」(ラーメン)の2種類のインスタント麺を混ぜて作る。

2013年韓国MBCの人気テレビ番組『お父さんどこ行くの?』で放送されて以来、真似をして作る人が増え爆発的人気を得た。しかし、世界ではこの「ジャパグリ」と言う単語が理解しにくいため、パケットさんは外国人にも知られているラーメンとうどんを足して「RamDong」と言う造語を作り代用した。

余談だが、今回パラサイトで「ジャパグリ」の知名度は世界規模になり、販売元である農心は、早速自社のYouTubeチャンネルで12カ国語字幕付き調理法動画を配信をした。映画を見てあの味が気になった人はぜひトライしてみてほしい。

また、パラサイトから誕生した意外な流行と言えば「ジェシカソング」だ。金持ちの家を訪問する際、架空の人物ジェシカのプロフィールを忘れないよう覚えるために登場人物が歌を作って口ずさむシーンである。

アメリカでパラサイトを鑑賞した筆者は、アメリカ人観客がここで爆笑するのを見て驚いた。日本や韓国では暗記するため語呂合わせなどで節をつけて歌ったりする。それがアメリカ人には新鮮に映ったようだ。今まで外国人には分かりにくいと思われてきた風習や、何気ない習慣などもこれからはその国の映画を作るうえでの強みとなるかもしれない。

パラサイトの北米配給権を所有している配給会社NEONは、特別映像として劇中歌っている女優が登場する「パク・ソダムが教えるジェシカソング」という動画を配信して注目を集めた。その後、この歌詞の英語版"Jessica、Only child、Illinois、Chicago"とかかれたTシャツやマグカップまで登場している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中