最新記事

映画

寄生する家族と寄生される家族の物語 韓国映画『パラサイト 半地下の家族』

Bong Joon-ho at His Best

2020年1月9日(木)18時10分
デーナ・スティーブンズ

magmovie200109_parasite2.jpg

長男ギウは裕福なパク家の家庭教師に ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

ある日、キム家の長男ギウ( チェ・ウシク) は、友人から裕福なパク家の英語の家庭教師をやらないかと誘われる。パク家の豪邸を訪問したとき、ギウは家族の人生を変えるチャンスを見つける。そしてキム家は全員でパク家に食い込み、彼らにとって欠かせない存在になるための計画を立てる。

やがてキム家の全員が映画の題名どおり、パク家に「寄生」して生活し始める。だが不運な上流階級のパク家は、キム家が自分たちの金に依存しているのと同じくらいキム家の労働に依存する。こうなると、どちらがどちらに寄生しているのか分からない。キム家がパク家の豪邸と財産を横取りしようとする最初の1時間は、犯罪コメディーの前向きなエネルギーに満ちている。中盤でパク家がキャンプ旅行に出掛けている間に、キム家はパク家の居間に集まって勝手に酒を飲み、冷蔵庫の中身を食い散らかす。だが、その後の思わぬ展開で2つの家族は異なる立場に置かれ、キム家は現実的で倫理的な全く新しい問題に直面する。

映画の後半は、壮大に描かれる自然災害によって、キム家の住まいがある荒廃した路地が深く黒い下水につかる場面から始まる。やがて、2つの家族が隠していた秘密に加えて、家族も知らなかった秘密がスリリングな演出とともに明らかになる。

運命は逆転したけれど

『パラサイト』を見る前に仕入れておく基礎知識は、これくらいにとどめたい。そのほうが、観客に伝えたいことだけを伝えたいときに詳細に明らかにするポンの手腕を、より深く味わうことができる。

この作品は、ある特徴を持つ集団を別の集団の安易な引き立て役にするような、階級に関する寓話ではない。裕福なパク家は世間知らずで搾取的だが、同時に欲望と機能不全を抱えたリアルな家族だ。

ポンは、裕福な家族に働いている家父長制の力学を特に鋭く分析している。母親は守られた存在であり、IT業界の大物である夫に経済的に依存しているために、キム家のような詐欺師の餌食になる。

この物語に込められた資本主義批判は広範で深い。映画が終わっても、問題はまるで解決されずに残る。

キム家は運命の逆転劇にたどり着くが、それで公正さがもたらされたという爽快感はまるでない。一方が勝って、一方が負けるゼロサム競争で、家族と個人を戦わせるシステムが暴露されるだけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

在欧州の米企業、トランプ新政権発足による関係悪化を

ワールド

トランプ氏就任式へのクアッド招待、「鉄の結束」示す

ビジネス

機械受注11月は前月比3.4%増、判断「持ち直しの

ワールド

中国、「教育強国」目指す10カ年計画発表=新華社
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中