「下ネタは世界共通。男たちは同じオチで、同じ顔で笑う」早坂隆×パックン
早坂 素晴らしい教育ですね。学校の授業よりよほど頭の訓練になるし。
僕はいろいろな国でジョークを聞いて、それを日本語に訳すのが仕事になっているんだけれど、翻訳にはすごく気を遣っている。僕のジョーク集以前にもジョーク集は出ていたが、あまり売れていないものが多い。例えば、学者さんが訳したジョーク集が何冊かあったが、僕も昔はその本を読んで、あまり面白いと思わなかった。でもさっき言ったみたいに、ルーマニアとか海外で現地のジョークを聞くと面白い。それはなぜかを考えると、やはり訳が硬いジョーク集が多かったのだと思う。
ジョークを活字にして読むときは、助詞1つ、改行するかしないか――改行が間(ま)になるんだけれど、それ1つで、笑えるか笑えないかが変わると思う。そういうところは気を遣って、日本人の読者が笑えるように書いている。
パックン なるほど。改行とか助詞とかは分かりますが、日本人が笑える単語とか、逆に分からない単語とか。あとは、お下劣すぎると笑えない単語とか。
早坂 そうですね。下ネタはそこが一番難しいですよ。下品になっちゃうと面白くなくなっちゃう。
パックン ペニスと一物、どっちがいいんですか、どっちが笑えない?
早坂 たぶん、ペニスだと校閲に修正を入れられちゃうんじゃない?
パックン あとは何がダメですか。性器は?
早坂 男性器とか女性器とかにしますね。文章の流れで「アレ」とかのほうがいい場合もある。やはり日本の出版業界には使っちゃいけない言葉があるので。
パックン そうなんだ。
早坂 あと、アメリカにもたくさんあると思うが、人食い人種が出てくるジョークが多い。人食いとかも、編集者によっては嫌がったりする。酋長という言葉を嫌がったり。「南の島の酋長」と書くんですけど、それは差別語だとなって、酋長を族長に変える、という校正が入る。まあ、テレビのほうがやれないことは多いと思うが。
「ギリギリのところで笑いをとる。不自由があるからこそ面白い」
パックン さっきの話で思い出したんだけれど、これはマックンから聞いた話。「女性のお尻はhip、女性の胸はbust、では英語であそこは何というか」
早坂 that!
パックン 正解はthereです。みんながvaginaとか思い浮かべるところで、「何言ってるの、あそこはthereだよ」と引っ掛けるやつなんだけど。
さっきの話に戻すと、人種や宗教など、いろいろな立場の人をオチに使うジョークがたくさんあるが、ジョークと差別の関係について。ジョークには危険性もある?
早坂 ありますね。ジョークにはいろいろな縛りがあり、言っちゃいけない、言ったら周りから怒られることもいっぱいある。そのギリギリのところで笑いをとるのがジョーク。不自由があるからこそ面白い。
パックン 線引きはどうする?
早坂 線引きは国によっても違う。例えば日本で、(2017年末に)ダウンタウンの浜田雅功さんが顔を黒塗りして批判された。海外から見たら不謹慎、ダメとなったことがあった。日本人からすると、あー、これもアウトなのかと驚きが大きかった。
日本側の言い分はどうであれ、世界では通らない。世界統一ルールみたいなものは今のところないし、国によって、時代によっても変わるので、難しいところ。でもギリギリを攻めないと面白くならない、というところもある。