最新記事

デザイン

りんごをアクリルに閉じ込めた三木健とは何者か

2017年12月7日(木)17時03分
山田泰巨

世界で高い評価を得て、まず英語で書籍化された

この教育メソッドは、三木さんがAGI(国際グラフィック連盟)で講演を行なったことをきっかけに、世界を代表するデザイナーたちの高い評価を得てスイスのラース・ミュラー・パブリッシャーズより英語の書籍として出版されることになった。「デザインとは何か」を学ぶ基礎実習はやがて日本国内で展覧会となり、これら一連の活動で三木さんはグラフィックデザイン界の優れた功績に与えられる賞、亀倉雄策賞を2016年に受賞している。

この展覧会が先日、『APPLE+展』となって中国で開催されたのだ。上海の中心街にある人民公園内の美術館「Museum of Contemporary Art Shanghai: MOCA Shanghai(上海当代芸術館)」がその舞台だ。上海自然博物館や上海電影博物館などをデザインした上海美術設計公司に招聘されたことにより、これが実現。2017年10月13日~12月4日に開催され、大勢の来場者がその授業を体験した。

applebook171207-3.jpg

上海当代芸術館でのオープニングで来場者に解説する三木さん(写真中央、写真提供:三木健デザイン事務所)

applebook171207-4.jpg

『APPLE+展』の会場風景(写真提供:三木健デザイン事務所)

日本国内で近年行なわれた展覧会をもとに再編集された展示だが、その仕掛けはより大掛かりなものとなっていた。立体的な"デザインの教科書"ともいえる会場には、天井と床に鏡の貼った空間、壁に投影された映像が天地へ延々と繋がっていく仕掛け、スロープに設置された一本線のりんごアニメーションなどを加え、大人から子供までが楽しめる展示へと発展させた。三木さんのこれまでの仕事も共に展示し、「APPLE」がその経験から生まれたことも見せている。

展覧会に合わせ、書籍『APPLE』の中国語版も刊行された。この展覧会を皮切りに、5年を掛けて中国国内を巡回する計画が進行中だ。「先方の希望もあり、当初の案を移設可能な展示案に変更し、別の都市での展示も行えるようにしています。それぞれの会場で異なる空間体験ができるようにしたい」と三木さんは言う。

「主催者である上海美術設計公司は、まだ造形に頼ったデザインが多い中国に、思考を持ったデザインを根付かせたいと言います。デザイン思考の事例は他にもありますが、たった1つのオブジェクトを使って思考全てを展開させるものは稀であると評価されたようです。会場で熱心にメモを取る女子高生が、私に向かってこれを日本で学びたいと言ってくれました。このように非常に反響も大きく、学内に『APPLE』を取り入れたいという相談を中国の大学からも受けているところです。デザイナーだけではなく、デザインされたものを選ぶ側の知識が高まり、それがデザイナーを成長させ、企業も目的をもって開発を行う。デザインの思考は、社会の循環にも大きく寄与するものです」

学びは生涯続くものであり、それは人の生活を豊かにしていく。りんごというたった1つの果実は、無限の気づきを教えてくれる。アダムとイブが手にした禁断の果実も、りんごだと言われる。彼らはこれを口にして無垢を失ったが、それこそ人の知の始まりだとも言える。

この知を学ぶ教科書がついに、英語版、中国語版に続いて日本にも登場する。12月13日に刊行される『APPLE Learning to Design, Designing to Learn――りんご 学び方のデザイン デザインの学び方』(三木 健、CCCメディアハウス)。まずは誌面で学びを得てみてはどうだろう。

applebook_cover-150.jpg
『APPLE Learning to Design, Designing to Learn
 りんご 学び方のデザイン デザインの学び方』
 三木 健 著
 三木 健 アートディレクション
CCCメディアハウス

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中