気が滅入る「老人地獄」は、9年後にさらに悪化する
しかも当然のことながら、問題は介護施設のなかだけにあるわけではない。以後もさまざまなケースが紹介されるが、高額医療費のせいで経済的に追い詰められる老夫婦の、「人生の終盤にこんな苦痛が待っているとは思いませんでした」という言葉は、現在の老人医療の不備を突いているといえよう。
自宅で暮らすのが難しく、しかし入居待ちが多い特養(特別養護老人ホーム)にも入れないため、老健(介護老人保健施設=介護を必要とする老人を対象とした施設)をわたり歩く90代女性も登場する。そうした行為を「老健わたり」というそうだが、90を越えたお年寄りがそんなことをしなければならないとは、あまりに過酷である。
また、原発被災地に焦点が当てられ、そこに2025年の日本があると指摘されている点にも、強く共感した。いわれてみれば、そのとおりだからだ。
少子高齢化が進む日本の将来を暗示しているのは、福島県の原発被災地だ。被災地では若い世代は放射能の影響を心配して避難した人が多いが、高齢者は残った人が多い。介護職員や看護師も避難したため、介護や医療の現場は深刻な人材不足に悩んでいる。(127ページより)
そんななか、南相馬市の特養へ約65キロの道のりを車で通い続けるケアマネージャーなどが紹介されるが、たしかにこれは、指摘されない限り気づきにくい問題ではないか。いやな表現ではあるが、このままでは、被災地がまずダメージを受け、その余波が全国へ広がっていくというような図式も容易に想像できる。
2025年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者になるため、高齢者医療や介護の問題がより深刻化するといわれている。いわゆる「2025年問題」だが、現時点ですでに、仕事を失ったり給料が減ったりしたことから保険料を払えなくなった中高年が続出しているのだという。
そんななか、財政難に悩まされる国や自治体は、保険料の徴収を辞さない。なかでも市町村が運営する国保は、保険料を滞納した人の財産の差し押さえや、給料からの強制徴収に踏み切るケースが急増し、経済的に追い詰められる人も多いという。
いわば、現時点ですでに、八方ふさがりなのだ。2025年からさらに10数年もすれば、次は現在50代前半である私の世代が同じようなことになる。しかもそのとき、自体はさらに悪化している可能性が大きい。にもかかわらず、少なくとも現時点では、抜本的な解決策が見えない状態だといわざるを得ない。
が、だからこそ本書を通じて現実を直視し、考えられることだけでも考えておいた方がいい気はするのだ。
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。書評家、ライター。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。