最新記事

BOOKS

創業者たちの不仲が、世界で最も重要な会社をつくり上げた

成功を導く人間関係について考えさせる『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』

2015年9月11日(金)17時34分
印南敦史(書評家、ライター)

『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』(マイケル・マローン著、土方奈美訳、文藝春秋)の著者は、全米で初めてシリコンバレー担当を置いた新聞『サンノゼ・マーキュリーニュース』において、初の同社担当となった記者。取材実績は1970年代から今日におよぶというのだから、その労力たるや想像に余りある。


 駆け出し記者だった二四歳のとき、"一般メディア発のインテル・コーポレーション担当記者"という珍しい立場に置かれた。当時インテルはすでに誕生してから一〇年近く経っていた。(中略)シリコンバレーでいち早くジャーナリストとして働きはじめ、またこれほど長きにわたって続けてきたことから、いまではゴードン・ムーアとアンディ・グローブだけでなく、ボブ・ノイスのこともよく知っているおそらく最後のジャーナリストという驚くべき立場に置かれている。(564ページ「著者あとがき」より)

 半導体メーカーの半世紀におよぶ歴史だと聞けば、「専門的で難しそうだ」と感じるかもしれない。しかし、読み進めていくうちに、そういうタイプの作品ではないことがわかる。端的にいえば、本書に描かれたインテル史は、そのまま"人間たちの歴史"であるともいい換えられるのである。

 キーマンは3人。まずは、カリスマ性の持ち主でありながら、怠惰で頼りなくもあるロバート・ノイス。次に、親切心と良識を持ちつつも、浮世離れしていて困難な決定には及び腰だったゴードン・ムーア。そして聡明だが反抗的で、ノイスとの対立に明け暮れた(だがムーアのことは敬愛していた)アンディ・グローブである。

 それぞれが強烈すぎる個性の持ち主で、人間関係という側面から見ると、どう考えてもバランスは理想的ではない。だが著者は、その不思議な関係性があったからこそインテルは成功したのだとも指摘している。大抵のビジネス・パートナーシップは仲よくスタートし、高確率で険悪な関係になるが、インテルの場合は、不仲で始まった創業者たちがやがて互いへの敬愛を深めていった稀有な例だというのだ。


 三人の創業者(あるいは二人の創業者プラス一人)をつぶさにみるほどに、彼らは仕事上のパートナーというより家族のように思えてくる。ぶつかりあい、陰で何かを企んだりつまらない言い争いをしたり、過去の冷たい扱いを根に持ったり、ときに嫉妬をして相手を責めたり。だが仕事相手というよりはるかに深い絆で結ばれており、互いの勝利を誇りに想い、互いの弱みを埋め、共通の敵の前には反感を捨て去り、チームとしてそれぞれ個人では絶対に成し遂げられなかったような成功を手にした。(78ページより)

 これには同感で、だから私も「産業史」としてではなく「人間物語」としてこれを読んだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 9
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中