最新記事

株の基礎知識

野球選手の年俸で考える「安い株」「高い株」の見分け方

2022年5月31日(火)17時00分
朋川雅紀 ※かぶまどより転載

相対バリュエーションと絶対バリュエーション

バリュエーションには「相対バリュエーション」と「絶対バリュエーション」があります。

「相対バリュエーション」とは、PERやPBR(株価純資産倍率)、PSR(株価売上高倍率)などで、現在の株価と現在、あるいは将来の収益力、簿価、売上などを比べて、割安か割高かを判断するものです。

・PER=株価÷1株あたり利益(EPS)
・PBR=株価÷1株あたり純資産(BPS)
・PSR=時価総額÷売上高

一方、「絶対バリュエーション」は、お金の時間価値を考慮し、将来のキャッシュフローを割引率で割り引いて理論株価を算出するものです。そして、算出された理論株価と現在の株価を比べて、割安か割高かを判断するのです。

絶対バリュエーションは理論としては優れていて洗練されていますが、現実問題として、将来のキャッシュフローの予測、適切な割引率の算出は難しい作業になります。ですから、私自身はもっぱら「相対バリュエーション」、とりわけPERに頼っているというわけです。

PER、PBR、PSRそれぞれの長所と短所を比較してみましょう。

■(1)PERの長所と短所

[長所]
・株価を決める最も大事な要因である「企業の収益力」を使って株価を評価している
・投資家の間で最も広く使われ、理解しやすい概念

[短所]
・EPSがマイナスの場合には使えない
・収益(EPS)の数字には経営者の恣意が働きやすい
・収益の変動が大きく、PERが高いときが買いで、PERが低いときが売りであるため、市況関連企業を評価するには適さない

■(2)PBRの長所と短所

[長所]
・EPSがマイナスのときでも、簿価は通常プラスの数字であるので、赤字企業を評価できる
・金融機関のように「流動資産」が多い企業を評価するのに適している

[短所]
・簿価は収益力を表すものではない
・インフレや技術革新を反映した時価と簿価の間に乖離がある

■(3)PSRの長所と短所

[長所]
・売上高は収益や簿価以上に経営者の恣意が働かない
・EPSがマイナスのときでも、赤字企業を評価できる

[短所]
・支出に対する考慮をしていないため、コスト構造が見えない
・バリュエーションは単純な尺度ではない

バリュエーションは、「高い株は避けて、安い株を買う」というような単純な尺度として使うものではありません。たとえ高いバリュエーションであっても、高成長で魅力的な銘柄であれば、当然、投資対象になりうるのです。

一方で、永遠に高成長を続けることを想定するのは非現実的ですから、いつかはバリュエーションの修正が起こることを前提に、企業を観察し続けることが大切になってきます。

[執筆者]
朋川雅紀(ともかわ・まさき)
個人投資家・株式投資研究家。大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立する。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。【かぶまどアワード2021スマニュー賞】

※当記事は「かぶまど」の提供記事です
kabumado_newlogo200-2021.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中