最新記事

教育

中2で起業、高1で母校を買収した女性起業家が考える理想の教育とは

2021年12月5日(日)14時20分
仁禮彩香(TimeLeap代表) ピョートル・フェリクス・グジバチ(プロノイア・グループ代表) *PRESIDENT Onlineからの転載

「数学が嫌い」という子どもに「なぜ?」と聞く人がいない

仁禮 私現在の教育コンテンツには、ゴールが設計されていたり、最低基準が一律であったりするものが多いですよね。テストの点数がとれていれば評価され、それ以外は評価されないという極端な仕組みです。もちろん現行の評価軸を撤廃しろと言いたいのではありません。テストが得意な人がいるからそれはそれでいい。ただ、個々人の才能や個性をどう見つけ、どう伸ばすかを考えてつくられているものが非常に少ないことが問題です。

現状のシステムは、むしろ個性を排除していく仕組みになっている。ピョートルさんもよく言っているように、私も「自己認識」が教育の基本だと思っています。学校は自分のことを知るための場所であってほしい。本来は、まず自分を知って、そこで初めて「何を学ぶのか」「どう学ぶのか」「どう生きていくのか」を考え、時間割を組んで進路を考えていくべき。それなのに、自己認識をまったくしない状態で、数学や国語や歴史の授業を受けているのが現状です。

「数学が嫌い」と言う子に「なぜ嫌いなの?」と問いかけてくれる人はいません。ただ先生が嫌いだからなのか、答えが一つしかないという数学の思考回路そのものが合わないからなのか、自分の人生にどう活かせるのかがわからなくて目的が見えてくるまではモチベーションが上がらないタイプだからなのか、それぞれ違う理由があるはずなのに、それを「数学嫌いなんだ。へぇ」で終わりにしてしまったら、その子は自分を知ることができません。本来、学校は、一人ひとりに対し、サポーターとして「それはなぜなのか」「どうしたらいい?」「あなたはどう?」と一緒に考えるべき。それが教育の理想なのではないかと思います。

今まで抑圧されていた子の個性を活かしたい

books20211204.jpgピョートル 学校にアウトソースしていた教育が、コロナ蔓延時の自粛で、自宅学習しなくてはいけない状況になりましたよね。自分の時間の使い方に自覚的な子どもたちがいる一方で、そうでない子たちも大勢います。底上げをどう捉えているのでしょう。

仁禮 私早い段階で自覚が持てる子たちは、少ないけれど、確かにいます。その子たちは、今までの教育では逆にないがしろにされてきた子たちです。本人には先が見えているけれど、学校で他の子たちと同じレベルに合わせてコミュニケーションをすることができなくて、いじめに遭うケースもある。自分の言いたいことを口に出せず、もどかしい思いをしているケースもあると思います。

社会にはさまざまな役割を持った人や組織が存在していて、TimeLeap社の役割は、どちらかというと底上げより、まずはそういう現行の画一的なシステムに抑圧されていた子を救うことにあると思います。この子たちが活躍できるようになれば、「私もそうだ」と自分の才能や個性を活かせる子も出てくるでしょう。そうすれば、今まで変化しないままだったことも変化せざるを得ない状態に追い込まれるはず。

現在の教育は単一的ですが、今後選択肢が豊かになることで、底上げの意味も含め個別最適化された教育価値を、一人ひとりの子どもたちに提供できる未来が来ることを信じて、私は進み続けます。

仁禮彩香(にれい・あやか)

TimeLeap代表
1997年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部所属。中学2年生のときに1社目の会社を設立し教育関連事業・学生/企業向け研修などを展開。高校1年生のときに自身の母校である湘南インターナショナルスクールを発展支援の目的で買収し経営を開始。2016年にTimeLeap(旧Hand-C)を設立し、代表に就任。同年DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。現在は小中高生のための起業家教育プログラムTimeLeapAcademyなど「自らの人生を切り拓く力」を育む事業を展開。

ピョートル・フェリクス・グジバチ(Piotr Feliks Grzywacz)

プロノイア・グループ代表
TimeLeap取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。モルガン・スタンレーを経て、グーグルでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAYWORK』(PHP研究所)など著書多数。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国のレアアース等の輸出管理措置、現時点で特段の変

ワールド

欧州投資銀、豪政府と重要原材料分野で協力へ

ワールド

新たな米ロ首脳会談、「準備整えば早期開催」を期待=

ビジネス

米政権のコーヒー関税免除、国内輸入業者に恩恵もブラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中