最新記事

ビジネス

26歳社長は「溶接ギャル」 逃げた転職先で出会った最高の「天職」

2021年9月11日(土)16時08分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

reuters__20210910194936.jpg

「勝倉ボデー」のガレージ内部(写真:筆者撮影)

自動車板金業の場合、車検に向けた整備もする会社が多いが、粉すけさんは整備には手を出さず、あくまで『外装の修理』『カスタム・デコレーション』のみに特化した会社にした。

その代わり、車種は選ばず、バイク、乗用車、重機、トラックと、エンジンがついているものならなんでもござれ、で受け入れた。

「最初は社屋もなかったんです。会社を始めたとき、知り合いの土建屋からユンボ(パワーショベル)のドアの修理を頼まれました」
粉すけさんは、ユンボのドアだけを外して、それを軽トラに積み込み、粉すけさんのお婆さんの家に持っていった。

「当時、おばあちゃんの家がでっかい空き地だったんですね。敷地にユンボのドアをおろしてトンチンカンチン直しました」

結局、社屋はあったほうがいいということになり、現在は事務所とガレージのある物件を借りて作業をしている。

ただ、1人でできる仕事量には限界があるので、まだ『勝倉ボデー』の看板は出していない。粉すけさんは人を雇うのには慎重だ。

「人を雇う余裕はないし、人の人生を請け負う自信はないですね。一度雇ってしまったら、『仕事がないから出てこなくていい』とは言えないじゃないですか。よっぽど仕事が増えない限り、人は雇えないと思っています」

ただ1人でやるのには難しい仕事もあった。

トラックのフェンダー(泥除け)を、巨大なバスフェンダーに交換する仕事があった。

最近ではあまり見なくなった、デコトラ改装の仕事だ。

「そもそも1人じゃバスフェンダーを持ち上げられませんでした。ハンドリフトはあるんですけど、微調整が難しいんですよね。結局手が空いていた旦那に手伝ってもらって難を逃れました」

粉すけさんは『勝倉ボデー』をこれからどのような会社にしていきたいと思っているのだろうか?

"逃げ"で始めた仕事だったが

「私はこの仕事を"逃げ"ではじめたんです。だからどこに行き着こうみたいな目的はなかったんですね。

今は、お客さんにはとにかく安くできる方法を提案しています。ディーラーに頼むと新品を取り付けられちゃうけど、うちだったら中古品をつけますよ、とか。割れたガラスの代わりにアクリル板をはめ込みますよ、とかですね」

最近では『溶接ギャル』としてみんなにもてはやされるようになってきた。

女性が板金塗装業をしていることを評価する人、ギャルが好きな人、そして溶接の技術や値段の安さを評価する人から、それぞれ仕事が舞い込んできている。

reuters__20210910200440.jpg『安全靴の商品開発』

『大手量販店とのコラボ商品開発』

『アパレルブランドのモデル』

など、板金業とは関係のない仕事も増えてきている。

「『いったい自分は何屋なんだろう?』って思うことはあります(笑)。

溶接は好きなので、いずれ溶接に特化していきたいですね。いつか溶接工場が建てられたらいいなと思います。

あと車より好きなものがあって、それは動物なんですよ。今も犬2匹、猫1匹飼ってます。動物がいるなら、貧乏やイジメにも耐えられるなって思います。溶接屋をやりながら、いつか動物園開きたいですね。動物園のおりは、自分で作ることができますしね(笑)」

将来の夢を語る粉すけさんの目は生き生きと輝いていて、とても楽しそうだった。

村田 らむ(むらた らむ)

ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター
1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、財務長官に投資家ベッセント氏指名 減税

ワールド

トランプ氏、CDC長官に医師のデーブ・ウェルドン元

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中