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インタビュー

「社員の生産性」より「より良い仕事体験」が主流に

[ジェレミー・マイヤーソン]ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン、RCA 特任教授

2017年10月27日(金)16時09分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<オフィスを研究するジェレミー・マイヤーソン氏が説く、現代のオフィスに求められる役割。「企業が生産性向上に力を入れた結果、生産性が低下するという皮肉な現象が起きている」とマイヤーソン氏は言う>

※インタビュー前編:オフィスデザインに訪れた「第四の波」とは何か

私はヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザインなどでの活動のほか、WORKTECH* アカデミーのディレクターを務めています。WORKTECHではワーカーのウェルビーイング向上に資するフォーラムが数多く設けられていますが、この分野に対する企業の関心の高まりを感じます。かつての「社員の生産性をどのように改善できるか」「どうすれば社員をより頑張らせることができるか」という課題意識は影をひそめ、今では「どうすれば気持ち良く働けるのか」に主眼が移っているわけですね。

また、「どのように社員により良い"仕事体験"を提供できるのか」というテーマも企業は抱えています。生産性から幸福に移行したのと同じように、効率から体験/経験に移行しようとしているのです。

これはなぜか。企業が生産性向上に力を入れた結果、生産性が低下するという皮肉な現象が起きているからです。

照明や音響がもたらす心理的快適さが生産性を高める

欧米の先進国、特にイギリス、ドイツ、アメリカでは、ホワイトカラーの職場は生産性の面でうまく機能していません。原因として挙げられるのは、ワーカーの気持ちが「オフィス」にないことです。

ワーカーが職場に不満を抱え、心ここにあらずの状態で働いていたとしたら、どれだけ設備の効率化を進めても効果はあげられません。生産性を高めたいのなら、まずワーカーのウェルネスとやる気の改善に着手しなければならないのです。

照明ひとつとっても、企業はオフィス環境を改めていく必要があります。以前は機能性を元に明るさが設定されていました。例えば「書類を読むのに適切な明るさ」「部品を組み立てるのに適切な明るさ」を考えていたわけです。しかし今は「心地よい明るさ」、つまり心理的な快適さが求められます。これは微妙ですが明らかに異なるアプローチです。

照明や音響といった設備は業務に関係ないと考えがちですが、知的労働は頭の中でこなされます。工場の生産性のように、処理のスピードや精度を客観的に測ることが難しい。だからこそ、人々がより良い気分になり、そしてより一生懸命になり、より意欲的に仕事に関与するようになるもの、つまり生産性を高めるものとして、これらを無視することはできないのです。

自分が何かの一部であると感じさせ、職場との関係をより良くする

職場での体験/経験をどのように改善できるか――これは効率よりはるかに広い概念です。自分が何かの一部であると感じさせ、職場との関係をより良いものにする、そのためにオフィスデザイナーやマネジャーたちは、ホテルでの体験や小売店舗でのカスタマー体験を管理するのと同じ方法で職場での経験を管理しようとしています。

例えばイギリスのヘルスケア企業であるブーパ社では社員のウェルネスの増進に力を入れています。オーストラリアで不動産事業を展開するレンドリース社はウェルネス分野の責任者を置き、福利向上に取り組んでいます。

ウェル・ビルディング認証** という国際認証制度もできました。認証を得るには一定の基準をクリアしなければなりません。空気や飲食物の品質はもちろんのこと、終日デスクに座ったままにならないよう、さまざまな場所で運動や仕事をする機会を提供しているかといった点も評価されます。

オフィス革命は今まさに進行中なのです。1世紀以上に渡って職場は"完全密封"され、プライベートと完全に切り離されていました。仕事をするにはオフィスに行って専用ツールからデータにアクセスしなければならず、私服で出勤することもあり得ませんでした。社員はオフィスにいる間、人生を一時停止しなければならなかったのです。

しかし最近はカジュアルな服装で出勤できるようになってきましたし、オフィスの一角にカフェが設けられて飲食の自由度も格段に高まりました。人々はオフィスの中だけでなく、外でも働けるようになってきています。となると、オフィスに行く目的は仕事をするためというより、人と会うためという色合いが濃くなってきます。オフィスはより社会性を帯びた、都市の一部としての顔を持つようになってきたのです。

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