世界の若者を苦しめる「完璧主義後遺症」...オードリー・タンは「ジグソーパズル」にたどり着いた
現在、台北医学大学心智意識與脳科学研究所(日本でいう人文社会科学部)の教授を務めるティモシー・ジョセフ・レーンによると、当時わずか16歳だったオードリーは、教室で大学生たちに交じって講義を聞いていても、少しも物怖じする様子はなかったという。
自分の居場所を求めて大学へ行き、哲学からインターネットに関するものまでさまざまな講義を聴講して思想的視野を広げていったオードリーは、この世界に正しい答えを知る者など誰もいない、「誰もが自分にとっての正しい答えをもっていていい」のだと深く悟った。
同時に理解したのは、「問題解決の責任を一個人に負わせない」ことの重要性だ。
能力主義によって競争心が強まった80年代
1981年生まれのオードリーが育った時代は、まさに能力主義とエリート教育への信仰が広がり始めた時代と一致する。
『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』(早川書房)が全世界で注目を集め、当代一の有名哲学者となった、ハーバード大学政治哲学教授のマイケル・サンデルは、2020年のパンデミック期に書いた『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)のなかで、エリート教育が現代社会にもたらす害悪を指摘している。
1980年代にハーバード大学で教え始めたとき、「ハーバード大学に合格できたのは自分が努力した結果であり、運は関係ない」と考える学生が増えていることに気づいたという。