最新記事
福祉

「障害者福祉で儲けるなんて...」そんな社会通念を吹き飛ばせ! 芸術×ビジネスの福祉実験カンパニー

MORE THAN JUST A BUSINESS

2024年4月4日(木)16時17分
岩井光子(ライター)

newsweekjp_20240403033911.jpg

丸井とクレジットカードでコラボ COURTESY OF HERALBONY

国際アート賞も創設

COOの忍岡真理恵は、流れが好転した理由を2つ挙げる。

1つは同社のクリエーティブチームがキュレーター、デザイナー、ラグジュアリーブランド経験者、広告・営業、ITなど、ビジネススキルにたけたプロ集団であり、顧客のさまざまな要望に応える力量を備えていること。

もう1つは、顧客側の変化だ。「従来のエコグッズなどは飽和状態にあり、各社が差別化のために新しいストーリーブランディングを探していたところにうまくハマった」

年々、資金も人もESG(環境・社会・企業統治)を重視する会社に流れる傾向が強まっている。へラルボニーも19年から日本財団などが運営する支援プログラムに参加し、スタートアップ企業の段階的な投資ラウンドに従って資金調達を進めている。

利潤だけでなく、社会的インパクトも重視するESG投資家が活躍する時代と成長期がうまく連動したことも、へラルボニーにとって幸運なことだった。

支援プログラムで事業の中長期的なロードマップを策定し「社会に根付く障害のある人への偏見が払拭される」という大目標に向け会社が進むべき方向性が定まった、と松田兄弟は語っている。

昨年12月にはESG重視型のベンチャーキャピタルファンド、Mパワー・パートナーズ・ファンドをリード投資家に迎え、草創期から脱して拡大する段階である投資ラウンドで資金調達を行った。

Mパワー・パートナーズはベストセラー『ファクトフルネス』の翻訳で知られる関美和らが設立した女性投資家によるファンドで、将来性が見込まれる社会的企業に積極的に投資を行っている。

newsweekjp_20240403033840.jpg

日本航空の機内アメニティーなどにも採用 COURTESY OF HERALBONY

海外ネットワークに強い同ファンドがへラルボニーに寄せる期待は国際進出だ。海外ブランドへ売り込みを強化するとともに国際アートアワードを創設。今後は契約作家を国外にも求めていく計画だ。

また、企業のDE&I(多様性、公平性と包括性)推進に伴走する研修プログラムの提供も始めた。

テレビプロデューサーから脳神経科学の研究者まで、業務拡大による採用増で社員の経歴はますます多様性を増していて、車椅子利用の部門管理社員もいる。こうした組織特性を生かした新規事業の1つが、企業向けDE&I推進事業だ。

忍岡自身も前職の経済産業省やフィンテック企業で「紅一点」と言われてきた。「ジェンダーマイノリティーだった私も、残りのキャリアをこの会社の可能性に懸けたいと思って転職してきた」

障害のある人に対する偏見をなくす挑戦は、あらゆるマイノリティーの「異彩」を放ち、世界に響くメッセージとなる。忍岡はそう感じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中