「障害者福祉で儲けるなんて...」そんな社会通念を吹き飛ばせ! 芸術×ビジネスの福祉実験カンパニー
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国際アート賞も創設
COOの忍岡真理恵は、流れが好転した理由を2つ挙げる。
1つは同社のクリエーティブチームがキュレーター、デザイナー、ラグジュアリーブランド経験者、広告・営業、ITなど、ビジネススキルにたけたプロ集団であり、顧客のさまざまな要望に応える力量を備えていること。
もう1つは、顧客側の変化だ。「従来のエコグッズなどは飽和状態にあり、各社が差別化のために新しいストーリーブランディングを探していたところにうまくハマった」
年々、資金も人もESG(環境・社会・企業統治)を重視する会社に流れる傾向が強まっている。へラルボニーも19年から日本財団などが運営する支援プログラムに参加し、スタートアップ企業の段階的な投資ラウンドに従って資金調達を進めている。
利潤だけでなく、社会的インパクトも重視するESG投資家が活躍する時代と成長期がうまく連動したことも、へラルボニーにとって幸運なことだった。
支援プログラムで事業の中長期的なロードマップを策定し「社会に根付く障害のある人への偏見が払拭される」という大目標に向け会社が進むべき方向性が定まった、と松田兄弟は語っている。
昨年12月にはESG重視型のベンチャーキャピタルファンド、Mパワー・パートナーズ・ファンドをリード投資家に迎え、草創期から脱して拡大する段階である投資ラウンドで資金調達を行った。
Mパワー・パートナーズはベストセラー『ファクトフルネス』の翻訳で知られる関美和らが設立した女性投資家によるファンドで、将来性が見込まれる社会的企業に積極的に投資を行っている。
海外ネットワークに強い同ファンドがへラルボニーに寄せる期待は国際進出だ。海外ブランドへ売り込みを強化するとともに国際アートアワードを創設。今後は契約作家を国外にも求めていく計画だ。
また、企業のDE&I(多様性、公平性と包括性)推進に伴走する研修プログラムの提供も始めた。
テレビプロデューサーから脳神経科学の研究者まで、業務拡大による採用増で社員の経歴はますます多様性を増していて、車椅子利用の部門管理社員もいる。こうした組織特性を生かした新規事業の1つが、企業向けDE&I推進事業だ。
忍岡自身も前職の経済産業省やフィンテック企業で「紅一点」と言われてきた。「ジェンダーマイノリティーだった私も、残りのキャリアをこの会社の可能性に懸けたいと思って転職してきた」
障害のある人に対する偏見をなくす挑戦は、あらゆるマイノリティーの「異彩」を放ち、世界に響くメッセージとなる。忍岡はそう感じている。