ヨーロッパ研究者が語る、日本経済「失敗の本質」から学ぶべき2つの重要な教訓
JAPAN’S SELF-INFLICTED DECLINE
家電は日本の輸出産業の礎だった(パナソニックの工場) CHRISTOPH DERNBACHーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES
<人口が3分の2のドイツにGDPを追い越され、暮らし向きも他の先進国よりよくない。教育水準も研究開発費も高いのに、なぜ日本経済は停滞を続けているのか?少子高齢化より大きな要因とは>
本当なら、日本はうまくやれるはずなのだ。
この国の就労人口は教育も規律も水準が高い。研究開発費も多くの先進国を上回っている。対GDP比は3.3%で、最近までアメリカより高かった。
それなのに日本は世界の中で、「相対的衰退」を続けている。
1980~90年代の日本は、無敵とも思える製造業のおかげで世界第2位の経済大国だった。
だが最近、人口が3分の2のドイツにも追い越されて4位に転落した。
日本の衰退を理解するため、ビデオデッキ(VCR)の例を考えてみる。
VCRは信頼性の高い極小部品を必要とする驚異的な技術製品であり、精密製造の分野において日本の誇りだった。
世界のVCR市場は、ほぼ日本の独占状態。アメリカはVCRを生産しておらず、欧州企業は品質価格比で日本にかなわなかった。
しかし1990年代にVCRに代わるデジタル機器が登場し、2000年代に入るとそれが当たり前になる。
VCRの生産台数は減り、メーカーは値下げを強いられた。やがて次々と撤退し、もう日本国内にVCRを造る企業はない。テープレコーダーやソニーのウォークマンなど、多くの家電製品が同様の運命をたどった。
家電製品は日本の輸出産業を支える礎だった。
だが新たに登場した半導体を使う消費者向け製品は、日本のお家芸である精密工学を必要としなかった。アメリカがソフトウエアを提供してアジアの他国で部品を製造し、中国で組み立てるほうが安上がりだった。日本製品の需要と価格は下落した。
貿易での稼ぎやすさを示す指標である「交易条件」(輸出物価指数を輸入物価指数で割った比率)を見ると、日本は他の先進国と違って急降下している。
80年代半ばには160%近かったが、90年代後半に低下を続け、00年代に入ると急落。08年には100%を切った。日本経済の相対的な衰退には少子高齢化などより、交易条件の悪化のような要因がはるかに大きな役割を果たしてきた。
国民の生活水準は向上を続けているが、ペースは鈍い。全般的に見て日本の消費者は、他の先進国より暮らし向きがよくない。
ここで大きな疑問が浮かび上がる。
なぜ日本のメーカーはVCRのような製品にもっと早く見切りをつけ、それに取って代わる最先端の技術で先頭に立つ努力をしなかったのか。
なぜ日本政府は新分野に力を入れるよう、メーカーを促さなかったのか。