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EU、敵に塩を送っている? 実は輸入量が増加、ロシア産LNGの禁輸は可能か

2023年4月17日(月)12時36分
ロイター
LNGタンカーの模型とEUの旗

欧州連合(EU)内では、ロシア産化石燃料の利用停止に向けた努力に向けて、その抜け穴をふさぐという困難な課題に取り組むべきだという政治的圧力が高まっている。2022年5月撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)

欧州連合(EU)内では、ロシア産化石燃料の利用停止に向けた努力に向けて、その抜け穴をふさぐという困難な課題に取り組むべきだという政治的圧力が高まっている。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻から1年、EUは海上輸送によるロシアからの石油・石炭輸入を制裁対象としてきた。

ロシア産天然ガスは制裁対象となっていないものの、パイプライン経由で供給される天然ガスへの依存は劇的に低下した。だがその一方で、EU各国によるロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入量は全体として増大しており、2027年までにロシア産化石燃料の使用から脱却するというEUの公約達成が危ぶまれている。

結果的に、EUはロシアの国営天然ガス企業ガスプロムとノバテックに何十億ドルも送金したことになり、これがウクライナでの戦費に回っている可能性がある。このエネルギー企業2社は、法人税の納付によって、ロシア財政に対する最大の貢献者に名を連ねているからだ。

グローバル天然ガス市場の予測を行う調査会社キャプラビューのアナリストらは、ウクライナ侵攻開始から10カ月間でロシアが輸出したLNGの半分近くは欧州に向かい、その収益は約140億ドルに達したと試算している。

EUの分析では、ロシア産LNGの輸入量は、2021年の160億立方メートルから昨年は220億立方メートルに増大したとされている。EUがかつてパイプライン経由でロシアから購入していた天然ガスは年間1550億立方メートルで、これに比べれば圧倒的に少ないとはいえ、侵攻開始以降、輸入量が大幅に増えた国も一部に見られる。

調査会社ケプラーの分析では、ベルギーとスペインでは、ロシアのウクライナ侵攻開始後12カ月間で、ロシア産LNGの輸入量が2倍近く増大した。

27カ国が加盟するEU内部ではこの問題への対処を求める声が高まっているが、その方法についての合意は得られていない。エネルギー価格が高騰するリスクや、むしろロシアのエネルギー収益を高めてしまうリスクが高いからだ。

EUのカドリ・シムソン欧州委員(エネルギー担当)は先月、加盟国とEU域内企業に対しロシア産LNGの購入をやめるよう呼びかけ、EUからロシアへの資金の流れを断つ取り組みを喧伝する一方でLNG輸入量が上昇していれば「EUの評判に傷がつくリスク」があると述べた。

またスペインでも先月、テレザ・リベラ・エネルギー相が、スペイン企業に対してロシアのLNGの新規購入契約を結ばないよう要請した。ただし同氏は、公式の制裁を理由としない限り、ロシア産LNGの購入を停止したEU企業は契約違反で違約金を支払わざるをえなくなるだろうと述べている。

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