最新記事
SDGs

コーヒーが消える?──環境と人権問題に乗り遅れる業界に挑む、ネスレの「再生型農業」とは

COFFEE AT RISK

2023年3月16日(木)12時59分
澤田知洋(本誌記者)
コーヒーの苗木

ネスカフェなどの商品で知られるネスレは生育に4年程度かかるコーヒーの苗木(写真)を栽培法から変えようとしている NESTLE

<気温上昇や干ばつなど気候変動により、コーヒー豆に適した土地が2050年までに半減するという予測。気候対策と人権問題をともに解決する取り組みについて>

コーヒーが世界から消え去るのも、時間の問題かもしれない。気候変動による気温上昇や干ばつなどで、2050年までにコーヒー豆の生産に適した土地が約50%減少すると米州開発銀行は予測している。特に、世界で流通しているコーヒー豆で最もよく飲まれる品種であるアラビカ種への影響が大きい。

強制労働などコーヒー豆生産者への人権侵害も深刻だ。世界では約1億2500万人が生計をコーヒーに依存しており、コーヒー生産世帯の80%が貧困ライン以下で生活していると推定される。

スイスの食品大手ネスレは昨年、こうした危機的状況を変えるべく、2030年までに10億スイスフラン(10億6000万ドル)以上を、持続可能なコーヒー栽培のために投じると発表した。

同社はそれまでにも、25年までに自社のコーヒーを100%持続可能な方法で生産するという目標を掲げている。昨年の発表では、これに加えて25年までに20%、30年までに50%のコーヒー豆を「環境再生型農業」で栽培されたものから調達するというゴールを設定している。

気候対策も収入向上も

環境再生型農業とは土壌を修復・改善させる農法で、炭素を土の中に蓄えることにより大気中の二酸化炭素を減少させる効果もあるとされる。ネスレによれば、健全な土壌は気候変動の影響に強く、収穫を増やすことも期待できるという。

再生型農業の実践例としてはマメ科植物などカバークロップ(被覆作物)の植え付けによる土壌の保護や有機肥料の導入、森林の中で作物を育てる「森林農法」、異なる種類の作物を交互に栽培する「間作」があり、生物多様性の保全も念頭に置かれている。

ネスレはこうした生産方法への移行による「リスクとコストを引き受ける農家を支援する」として、再生型農業の導入の援助だけでなく、それによる生産者の収入向上を目指すプログラムも提供する。具体的には導入に対する金銭的報酬や、天候保険を利用した所得保護が検討されている。

コーヒーの世界市場は成長し続けており、25年までに1446億ドルに達する見込みだ。一方、複数のNGOが合同で発表した報告書「コーヒーバロメーター2020」によると、世界的チェーン企業など主要コーヒー事業者による環境問題や人権侵害を防ぐ努力はほとんど実を結んでいない。

ネスレの努力がコーヒー業界全体に広がる日は来るのか。

230321p27_NSR_02.jpg

DENIS BALIBOUSEーREUTERS

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

南アフリカ、25年成長率は1.1% 中銀・政府予想

ワールド

イランとの対話に応じる可能性、トランプ氏インタビュ

ビジネス

ECB、イラン戦争でも金利変更急ぐべきではない=政

ワールド

「イラン国民は専制政治のくびき脱するべき」、イスラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目のやり場に困る」密着ウェア姿がネットを席巻
  • 4
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 5
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 6
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 7
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 8
    トランプも無視できない? イランで浮上した「危機管…
  • 9
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 10
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中