インフレ抑制のために景気後退を歓迎する論者の愚かさ
WORLD ECONOMY
私たちの暮らしのあらゆる側面で、幸福を脅かす最も大きな要素は政治だ。いま世界の半分以上の人が専制体制の下で生きている。
この問題にアメリカも無縁ではない。
アメリカの2大政党の片方はもはや個人崇拝カルトと化していて、民主主義を否定し、2020年大統領選の結果について嘘を言い続けている。共和党はメディア、科学、高等教育機関を攻撃する一方、ひたすら虚偽の情報をばらまくことに血道を上げるようになっている。
経済思想の転換が不可欠だ
その狙いは、過去250年の進歩を巻き戻すことにあるのだろう。
冷戦が終わったときの楽観ムードはすっかり消え去った。当時は、政治学者のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」という言葉で表現したように、自由民主主義への強力な対抗者は存在しなくなると思われていた。
適切な政策を追求すれば、退歩と絶望へ滑り落ちることが避けられる可能性はある。しかし、多くの国では、政治的分断と膠着状態により、それが難しいのが現状だ。
アメリカやヨーロッパは、この半世紀にわたり農業生産に歯止めをかけてきたが、もっと早い段階で農家に生産拡大を促せたはずだ。
アメリカは、子育て支援にもっと力を入れれば、女性の労働市場への参加を促進し、人手不足を緩和できただろう。ヨーロッパは、もっと早期にエネルギー市場の改革を進めていれば、電力価格の急上昇を防げただろう。
世界の国々は、企業が得た「棚ボタ」の超過利益に課税することで、投資を促進して物価上昇を抑制できたかもしれない。その税収は、弱者を守ったり、経済のレジリエンス(回復力)を高めたりするために使えただろう。
新型コロナでは、国際社会が早期にワクチンの知的財産権放棄で合意していれば、新しい危険な変異株が出現するリスクを減らせたはずだ。
好ましい方向に前進している国が全くないわけではない。その点は、明るい要素と言えるだろう。
しかし、私たちはいまだに、国家の経済への介入を批判したフリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンらが主流に押し上げた極端な経済思想に基づく政策から脱却できていない。
そのような経済思想は、これまで私たちを真に危険な道へと導いてきた。その道の先に待っているもの、それは21世紀版のファシズムだ。
ジョセフ・スティグリッツ
JOSEPH E. STIGLITZ
2001年ノーベル経済学賞受賞者。NGO「国際企業課税改革独立委員会」のメンバーでもある。
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