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円安の今こそ日本経済は成長できる...円高はデフレと失業をもたらす(浜田宏一元内閣官房参与)

ABENOMICS STRIKES BACK

2022年10月26日(水)17時51分
浜田宏一(元内閣官房参与、エール大学名誉教授)
日本のサラリーマン

日本経済にとって最適な為替レートとは(東京・品川) KEVIN COOMBS-REUTERS

<円高でなく、円安の時にこそ日本経済は成長してきた。日銀は自国の物価や景気を見極めて行動すべきだ>

円安や円高は、国民生活にさまざまな影響を及ぼす。円高は輸入品を安くし海外旅行を容易にする。円安気味の現在、友人がボストン郊外に孫を訪ねた際に妻がけがをし、その手術が300万円もかかったが、これは円安の被害である。

これと逆に、円高気味の時には日本への旅行客が減って観光業は多大の被害を受ける。輸出産業は円高の際に製品が売れなくなり、輸入品と競争製品を作っている産業も同様に被害を受ける。このように各国民にとって為替レートの変動は時に正反対の影響を及ぼす。

円高にすぎるか、円安にすぎるかの論争で感ずるのは、何が正常な、あるいは望ましい為替レートであるかの議論なしに、過去いつの時点より円安だから、あるいは円高になったから、という議論が多いことである。円安、円高の望ましさを議論する際には、国民経済全体の物差しで測ったとき、何が正常、または望ましい為替レートの水準なのかを踏まえた議論が不可欠である。

交易条件(貿易での稼ぎやすさを示す指標、輸出物価指数と輸入物価指数の比で表す)や、実効実質為替レート(通貨の相対的実力)はそれなりに日本国民の厚生水準に為替レートが与える効果を示してくれるが、その数字が昔より下がったから日本は貧乏になったというからには、それらの数字が昔正常な値であったことが前提となる。

今まで、円高が日本経済を抑圧してきたと主張すると、財務省高官や時には優れた経済学者と思っていた友人から「それでも昔に比べれば日本の実質為替レートは下がっています」という反論を受けた。しかし過去の為替レートの水準が正常であったという理由は全くない。

国民に望ましい為替レートは

時の為替レートの値を数値的に、何を基準に行きすぎた「円安」「円高」と言うか。これについて明確な基準を提供したのがハーバード大学教授だった故デール・ジョーゲンソンと共に野村浩二・慶応大学教授が開発した為替レート換算の価格水準指数(PLI)である。これを分かりやすく「円高指数」と呼ぶことにしよう。

基本的な考え方は次のようなものだ。ある時点において、企業はその時の物価に応じて生産費を負担している。それがその時点の為替レートで換算して相手国の生産費より低ければ、その産業は貿易上、比較優位にある。その格差が国際運賃などを考慮しても十分大きければ、輸出産業になり得る。生産費が外国より高ければ、その産業は輸入産業の候補となる。この生産費の差を各財の産業の大きさで加重平均した額が、円高指数である。

外国(ドル・円の比較の場合はアメリカ)の同じように平均した生産費よりも高い時は、日本の産業は平均してその時のドル為替レートの下で円高のハンディを負っていることとなる。この円高指数は、各国の物価水準を考慮して国連などの計算した購買力平価(PPP)均衡為替レート(ドル・円)を、ドル・円の名目為替レートで割ったものにほぼ等しくなる。

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