円安の今こそ日本経済は成長できる...円高はデフレと失業をもたらす(浜田宏一元内閣官房参与)
ABENOMICS STRIKES BACK
図1は、戦後日本経済約70年の円高指数の推移であるが、これが1.0より低い時には、日本の産業は平均してアメリカよりも生産費が安く、日本経済はより輸出しやすい環境にある。1.0よりも大幅に下回るようだと多くの市場で何を作ってもそのまま売れ、輸出できるようになるので、国民経済にはインフレ圧力がかかる。
■【グラフを見る】円安と円高、日本にとってどちらが有利かをはっきり示すグラフ
逆に1.0より高い時には、平均的に国内産業のほうが現在の為替レートで換算するとコスト高になるので、その産業は苦しむこととなる。企業は収益を犠牲にし、労働賃金などのコストを節約しようとするので日本経済全体がデフレ圧力を受ける。つまり安達誠司・日銀審議委員が「円の足枷」と呼んだ円高の制約が日本経済を苦しめていることとなる。
まず直近の同指数の動きを見てみよう。確かに2021年以降、特に今年に入っては同指数から見ても円安にすぎる。野村教授によると直近は簡易推定であるが、例えば1㌦=140円という為替レートは円高推定では円安方向に35%ほど振れている。
しかも貨幣の相互連関から、アメリカの金融引き締めは、日本国内の金融政策とは独立して一層の円安を生み、将来のインフレをもたらす恐れがある。それ故、指数から見ると日銀は金融政策を緩やかに引き締め気味、金利を高め気味に誘導すべきと考えられる。
円安の時に日本経済は繫栄してきた
しかし、日銀が断固とした金融引き締めに躊躇するかに見えるのは、次のような理由があるからだと想定する。第1に、世界におけるコストプッシュ・インフレの影響で日本の輸入物価、卸売物価は上昇しているものの、消費者物価の上昇率は鈍く、GDPギャップ(需要と供給のバランスを示したもの。需要が供給を下回ればマイナスになる)も9月発表の統計でまだ3.1%もあるからである。
第2に、戦後日本経済を長期的に観察してみると、指数が円安の時、日本経済はおおむね繁栄し、逆に指数が円高の時、日本経済の成長は阻害されているからである。
そしてインフレをあまりにも長く体験しなかった国民が、インフレの可能性を期待に盛り込むことを控えている。しかしいずれ卸売物価の上昇率が消費者物価に織り込まれ、日本にもインフレが再燃しない保証はない。
為替レートには貨幣の相対量の影響があるので、予防の意味も含めて金融政策を今は引き締め的に転換する必要もあろう。イールドカーブ(金利と償還期間との相関性を示したグラフ)による長期金利の誘導を高めにするか、あるいはイールドカーブ以前の伝統的な金利政策に政策枠組みを戻すことも考えてよい。