最新記事

自作曲を歌うたび「使用料」を払う必要が...... 「歴史に残る名曲」56曲の著作権を1500万円で手放したビートルズの後悔

2022年10月24日(月)18時55分

ジョンもポールも、契約により、1973年までは自分の作品はノーザン・ソングスに帰属することになっていた。つまり、ジョンもポールも、1973年まではいくら曲をつくっても、作詞作曲の印税は入ってこなかったのだ。

そのためポールは、曲を妻リンダとの合作とし、曲の権利を半分リンダに与えた。リンダはノーザン・ソングスと契約していないので、リンダの著作権はリンダのものである。つまり、リンダを共作者として入れておけば、ポールのつくった曲の著作権を半分もらえるということである。

ジョンも、ヨーコとの共作とクレジットされている曲が何曲かあるが、それもこの契約問題が理由だと思われる。

漂流するビートルズの著作権

もちろん、ノーザン・ソングス側は納得がいかない。今まで曲をつくったことがない女性が、いきなり大作曲家と共作者になり、曲の権利を半分持っていくのである。ノーザン・ソングスは「契約逃れの意図は明らか」だとして、ポールとジョンを訴えた。

この裁判は、ノーザン・ソングス側も、ビートルズ側とあまりこじれるのは得策ではないということで、かなり譲歩をして和解している。あまり強く主張して、ジョンとポールが曲を書かなくなっては、元も子もないからだ。

ジョンとポールの新曲の印税はノーザン・ソングスが持っていたが、二人は新たな曲を書く義務はなかったので、まったく曲を書かないという選択肢もあったのだ。

ノーザン・ソングスは、自社が所有するビートルズの楽曲の印税の半分を作家(ジョンとポール)に払い、残りの半分をノーザン・ソングスとビートルズ側の会社(ジョンとポールがそれぞれ新しくつくった会社)で分け合うことにしたのである。

つまり、それまで100%ノーザン・ソングスに取られていたレコード印税を、ジョンとポールが75%ももらえるようになったわけである。

ノーザン・ソングスから見れば、ビートルズは楽曲の権利を、いったん全部売却したわけである。だから、ジョンとポールに著作権の印税の支払いをするいわれはまったくない。にもかかわらず、印税の75%もの支払いをすることにしたのだ。

ソニーの子会社にたどり着く

なぜ、このようにジョンとポールに有利な条件で、和解したのか?

ノーザン・ソングスは、この和解と同時に、ジョン、ポールとのあいだで新たな契約を結んだ。ジョンとポールが、1980年までに発表する曲の出版契約である。

大村大次郎『お金の流れで読み解く ビートルズの栄光と挫折』つまり、ノーザン・ソングスとしては、過去のビートルズの曲の印税を譲って、その代わり、これからのジョン、ポールの新作で稼がせてもらおうとしたわけである。

しかし、ノーザン・ソングスは、ジョンとポールに対する印税の支払いには応じたが、曲の権利自体は保持したままだった。

その後、ノーザン・ソングスの株は、さらに売りに出され、ビートルズの楽曲の権利は漂流することになる。もちろん、ビートルズの楽曲の権利は超高値で取引されたので、相当の資産家ではないと入手できない。

一時は、故マイケル・ジャクソンが手に入れた時期もあったが、スキャンダルの訴訟費用などの捻出のために手放し、現在はなんとソニーの子会社が所有している。

2017年、ポールが著作権の返還を求める裁判を起こし、ソニーと和解したと見られるが、和解条件については公表していない。

大村 大次郎(おおむら・おおじろう)

元国税調査官
1960年生まれ。大阪府出身。元国税調査官。国税局、税務署で主に法人税担当調査官として10年間勤務後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。難しい税金問題をわかりやすく解説。執筆活動のほか、ラジオ出演、「マルサ!! 東京国税局査察部」(フジテレビ系列)、「ナサケの女~国税局査察官~」(テレビ朝日系列)などの監修も務める。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書ラクレ)、『ズバリ回答! どんな領収書でも経費で落とす方法』『こんなモノまで! 領収書をストンと経費で落とす抜け道』『脱税の世界史』(すべて宝島社)ほか多数。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マクロスコープ:人手不足でも求人慎重、企業に微妙な

ワールド

米長官、イラン戦争「終結見えてきた」 NATOとの

ビジネス

大企業・製造業の景況感が4期連続改善、物価見通し小

ワールド

ベネズエラ、最終的に移行期間と自由・公正な選挙必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中