自作曲を歌うたび「使用料」を払う必要が...... 「歴史に残る名曲」56曲の著作権を1500万円で手放したビートルズの後悔
ジョンもポールも、契約により、1973年までは自分の作品はノーザン・ソングスに帰属することになっていた。つまり、ジョンもポールも、1973年まではいくら曲をつくっても、作詞作曲の印税は入ってこなかったのだ。
そのためポールは、曲を妻リンダとの合作とし、曲の権利を半分リンダに与えた。リンダはノーザン・ソングスと契約していないので、リンダの著作権はリンダのものである。つまり、リンダを共作者として入れておけば、ポールのつくった曲の著作権を半分もらえるということである。
ジョンも、ヨーコとの共作とクレジットされている曲が何曲かあるが、それもこの契約問題が理由だと思われる。
漂流するビートルズの著作権
もちろん、ノーザン・ソングス側は納得がいかない。今まで曲をつくったことがない女性が、いきなり大作曲家と共作者になり、曲の権利を半分持っていくのである。ノーザン・ソングスは「契約逃れの意図は明らか」だとして、ポールとジョンを訴えた。
この裁判は、ノーザン・ソングス側も、ビートルズ側とあまりこじれるのは得策ではないということで、かなり譲歩をして和解している。あまり強く主張して、ジョンとポールが曲を書かなくなっては、元も子もないからだ。
ジョンとポールの新曲の印税はノーザン・ソングスが持っていたが、二人は新たな曲を書く義務はなかったので、まったく曲を書かないという選択肢もあったのだ。
ノーザン・ソングスは、自社が所有するビートルズの楽曲の印税の半分を作家(ジョンとポール)に払い、残りの半分をノーザン・ソングスとビートルズ側の会社(ジョンとポールがそれぞれ新しくつくった会社)で分け合うことにしたのである。
つまり、それまで100%ノーザン・ソングスに取られていたレコード印税を、ジョンとポールが75%ももらえるようになったわけである。
ノーザン・ソングスから見れば、ビートルズは楽曲の権利を、いったん全部売却したわけである。だから、ジョンとポールに著作権の印税の支払いをするいわれはまったくない。にもかかわらず、印税の75%もの支払いをすることにしたのだ。
ソニーの子会社にたどり着く
なぜ、このようにジョンとポールに有利な条件で、和解したのか?
ノーザン・ソングスは、この和解と同時に、ジョン、ポールとのあいだで新たな契約を結んだ。ジョンとポールが、1980年までに発表する曲の出版契約である。
つまり、ノーザン・ソングスとしては、過去のビートルズの曲の印税を譲って、その代わり、これからのジョン、ポールの新作で稼がせてもらおうとしたわけである。
しかし、ノーザン・ソングスは、ジョンとポールに対する印税の支払いには応じたが、曲の権利自体は保持したままだった。
その後、ノーザン・ソングスの株は、さらに売りに出され、ビートルズの楽曲の権利は漂流することになる。もちろん、ビートルズの楽曲の権利は超高値で取引されたので、相当の資産家ではないと入手できない。
一時は、故マイケル・ジャクソンが手に入れた時期もあったが、スキャンダルの訴訟費用などの捻出のために手放し、現在はなんとソニーの子会社が所有している。
2017年、ポールが著作権の返還を求める裁判を起こし、ソニーと和解したと見られるが、和解条件については公表していない。
大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官
1960年生まれ。大阪府出身。元国税調査官。国税局、税務署で主に法人税担当調査官として10年間勤務後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。難しい税金問題をわかりやすく解説。執筆活動のほか、ラジオ出演、「マルサ!! 東京国税局査察部」(フジテレビ系列)、「ナサケの女~国税局査察官~」(テレビ朝日系列)などの監修も務める。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書ラクレ)、『ズバリ回答! どんな領収書でも経費で落とす方法』『こんなモノまで! 領収書をストンと経費で落とす抜け道』『脱税の世界史』(すべて宝島社)ほか多数。