最新記事

自動車

日本でEVが普及しない根本原因とは ── 30分かけても高速道1時間分しか充電できない

2022年7月23日(土)12時30分
山崎 明(マーケティング/ブランディングコンサルタント) *PRESIDENT Onlineからの転載

年間のランニングコストは、50kWであれば60万円程度だが、100kWでは250万円程度かかるという。このことから、日本の充電スポットの多くが50kW以下で、かつ1基しか設置されていないところが多いという状況になっているのである。

加えて、このように運営側の設置およびランニングコストがかかるので、急速充電にかかるコストは一般家庭で充電するよりもかなり割高だ。

電力逼迫が足を引っ張る

今後この状況は改善されていくだろうか。

50kWの充電器がフル稼働しているときの電力はエアコンの100台分に相当する(8畳用のエアコンで冷房時の消費電力を平均で500Wと想定した場合)。これが100kWなら200台分、最近欧州で設置が始まっている350kWなら700台分だ。

これだけの電力を1基の充電器で消費するのである。

現在、日本の電力は逼迫(ひっぱく)しており、電力会社としては大量の電力を必要とする大出力充電器の大量設置は避けてほしいところだろう。家庭での夜間充電あれば需要も少ない時間帯であり、出力も低いので問題はないが、急速充電は昼間の場合が多いだろうから電力需要の多い時間帯に大量の電気を必要とするのだ。

BEV普及のために、電力会社が高出力充電器のための優遇策を導入することは考えにくい。

日本での普及はBEV軽自動車からでいい

政府は電力逼迫にもかかわらず、なぜか高出力充電器設置に補助金を出している。高速道路のサービスエリア・パーキングエリアの設置に対してはかなりの金額を出しているものの、その他の場所への設置にはまったく不十分な額でしかない。

多額の投資をして設置しても回収が難しいなら、設置しようとする事業者などほとんどいないだろう。テスラやポルシェといった高性能・高価格BEVを販売しているメーカー・インポーターの独自網以外で高出力充電器の設置が進むとは考えにくいのが現状だ。

電力状況を考えると、日本のBEVは当分の間、高齢者やセカンドカー・サードカー需要を満たす軽自動車を中心に進んでいくだろう。そしてファーストカー需要はハイブリッド車がメインであり続けるだろう。

しかし、それが結果的に日本のエンジン搭載車のさらなる燃費向上(=CO2削減)につながり、BEVも最小限のバッテリー搭載で製造時のCO2排出を最小限にとどめ(バッテリーは製造時に大量のCO2を排出する)、日本が自動車分野におけるCO2削減のリーダーであり続けることにつながるかもしれない。

山崎 明(やまざき・あきら)

マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国産大豆追加購入の可能性低下も 関税違憲判

ビジネス

トランプ関税違憲判決、米エネ企業のコスト軽減 取引

ワールド

米USTR、新たな301条調査開始へ 主要国の大半

ワールド

トランプ氏、10%の代替関税に署名 最高裁の違憲判
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 2
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 3
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルーの大スキャンダルを招いた「女王の寵愛」とは
  • 4
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 5
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 9
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 10
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中