最新記事

権力

なぜ世界のビジネスエリートは今、「権力」を学ぶのか?──ただし、使い方には要注意

UNDERSTANDING POWER

2022年7月5日(火)14時45分
井口景子
バッティラーナ&カシアロ

著者のバッティラーナ(右)とカシアロは20年以上にわたってパワーの力学を研究し、多くのリーダーや組織に助言を与えてきた LIESL CLARK

<ハーバード大学、スタンフォード大学など名門大学MBAで、今一番注目されているのが、「権力の授業」。誤解されがちな「権力(パワー)」こそが、自分と社会を変える源に>

権力(パワー)の仕組みとそれを効果的に活用するコツを明快に解き明かした新著『ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業』で注目を集めるジュリー・バッティラーナとティチアナ・カシアロ。邦訳の翻訳者、井口景子が2人にメールで話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――世界のビジネスエリートはなぜ今、パワーについて学ぶべきなのか。

この3年間でパンデミックによる健康危機だけでなく格差拡大に起因する経済的、社会的危機、さらに環境危機も進んでいる。現状維持は不可能で、ビジネスの世界を含め変革が必要だ。ビジネスエリートの人々もその必要性に目覚めつつある。

企業は長年、危機の悪化に加担してきたが、財務目標に加えて社会的、環境的な目標も追求するよう求める圧力が強まっている。幸い、従業員から経営陣まで多くの人々が問題解決に携わりたいと願っている。

――パワーに関するあなた方の講義が人気を集めるのはなぜだと思う?

人々はパワーに魅了される一方で強烈な不快感も抱いており、パワーは汚れたものだから関わらないほうが道徳的に美しくいられると思っている。私たちの教える内容が有益なのは、パワーの真の仕組みを理解し、そうした誤解を打ち砕けるから。そうすることで受講生は勇気づけられ、パワーは物事を成し遂げるために必要なエネルギーだと気付く。

――著書への反響は?

自分自身と組織、社会への見方が劇的に変わったという声が多く寄せられている。この本の狙いは、暗闇を見通せる「暗視スコープ」を提供することで読者を誤解から解き放ち、パワーの基本原理を理解する助けとなることだ。

――本著に登場する米宇宙飛行士エレン・オチョアのように、一部の人はパワーの効果的な使い方を直感的に知っているように思える。そうでない多くの人との違いは何か。

そうみえる人にも変革の起こし方について苦悩した経験はある。生まれながらの変革者はおらず、彼らもまた学びながら、必要なパワーの土台を積み上げてきた。

本著で紹介した人の多くが当初はパワーを持てない立場だったことから、パワーと職権が同一でないことも分かる。職権はパワーの源泉になり得るが、それがあるからといってパワーを持てる保証はない。

――周囲の「弱者」がパワーを得る手助けをするためにできることは?

現代社会には人種差別や性差別、民族、宗教、性的指向、階級に基づく差別など体系的な不公正が蔓延している。パワーへの万人のアクセスを民主化するには、そうした不公正に対抗する必要がある。

弱者自身が不当な階層構造を壊すのは無理でも、歴史が示すように彼らが集団行動に加わって変化を起こすことは可能だ。多くの人が連携して変革を成功させるには3つの役割が必要だ。

現状に異を唱えて世論を喚起する「扇動者(アジテーター)」、具体的な解決策を考案する「革新者(イノベーター)」、そして、さまざまなステークホルダーを協調させて解決策を実現に導く「調整役(オーケストレーター)」。

パワーを理解した上で3つの役割の人々が協働できれば、パワーの不当な階層構造を崩し、弱い立場の人々をエンパワーできる。



ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業
  ジュリー・バッティラーナ&ティチアナ・カシアロ (著)
  井口 景子 (訳)

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

シェル、株主還元を強化 支出見通し引き下げ

ワールド

情報BOX:大ナタ振るうマスク氏のDOGE、その役

ビジネス

春闘「非常に良いスタート」、定着を期待=十倉経団連

ワールド

ドイツ住宅価格、昨年第4四半期に下げ止まり 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 7
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 8
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒.…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中