日本経済が世界から取り残される原因作った「真犯人」 なぜこれほど新興企業が少ないか
スタートアップ企業が利益を得るには数年を要する。諸外国ではこのジレンマを解決するために、「繰越」制度を導入している。つまり、税額控除を受けたがまだ利益を出していない企業は、数年後に利益が出たときにその控除を使うことができるのである。
イギリスでは、この繰越期間は無期限とされており、アメリカとカナダでは、繰越期間は20年間と定められている。日本では、安倍政権下で廃止されるまでは、1年間しか使えなかった。この点でも同様に、岸田首相が財務省に打ち勝つことが前進の条件となる。
二重課税されない仕組みが必要
合同会社という企業形態が生まれたことで、多くの国で起業が盛んに行われるようになった。1988年にアメリカでLLC(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)が認可されると、高成長を遂げる革新的な企業が続々と誕生した。
LLCの強みは、「二重課税」を回避できることだ。従来の株式会社では、まず企業の利益に対して税金を課され、次に利益分配の段階でオーナー・株主個人に対して税金を課される。
LLCの場合、利益に対して一度だけ課税されるため、外部からの出資をより多く呼び込むことができる。2006年、経済産業省の石井芳明氏が合同会社制度の導入を推進した際、石井氏は二重課税の排除も提案した。しかし、このときも財務省が減税に対して拒否権を発動した。
日本では銀行が中小企業の経営者に対し、企業が債務不履行に陥った場合に備えるための「個人保証」を要求するケースが他国と比較してはるかに多い。つまり、企業経営者は自宅や生活資金などを失う可能性があるのだ。そのようなリスクを取る人が少ないのは当然である。
2014年、金融庁はついに銀行に対し、個人保証の利用を減らすよう申し入れした。これを受けて、個人保証を必要とした中小企業向け新規融資の割合(金額ではなく件数)は、2015年の88%から2021年の70%へと徐々に減少している。
ただし、金融庁の新規融資のデータには、既存顧客に対する融資のロールオーバーと新規顧客に対する融資の両方が含まれている。ありうることだが、多くが前者であったとすれば、新興企業にはほとんど役に立たなかったということになる。
PIFが果たせる重要な役割
岸田内閣は、巨大な年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に対して、VCファンドへの投資を拡大することを求めている。GPIF単独での投資ではなく、国内外の独立したVCファンドを通じて投資するかぎり、GPIFの投資は大いに新興企業に貢献するだろう。
なお、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)は、新興企業ではなく親会社の利益を図るものであるため、GPIFはCVC経由の投資を行うべきではない。
創業ブームを起こすためのソリューションを考えるのは難しいことではない。難しいのは、政治的、官僚的な抵抗に打ち勝つことだ。これまで日本の政策立案者は、「どうしても10キロ痩せたいのに、必要な手段を取らない人」のような行動を繰り返してきた。岸田首相の提案内容の詳細が明らかになれば、首相にその意志と実行力があるかどうかが明らかになるだろう。
リチャード・カッツ(Richard Katz)
東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)
カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。