最新記事

ビジネス

ラグビー「リーグワン」で初年度にチーム再編や廃部が続く理由

2022年4月11日(月)18時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ラグビーが抱える構造的な問題

NTTの新会社が発足すれば、事業運営会社がチームを経営するのは、リーグワンでは旧ヤマハの静岡ブルーレブズ、旧東芝の東芝ブレイブルーパス東京に次ぎ3社目になる。とはいえ主な出資元はいずれも母体企業であり、チームの運命は現在もその経営動向と密接に関わる。

かつてトップリーグで5回優勝した名門東芝ブレイブルーパス東京は、リーグワン参加に合わせ事業会社が運営を担う形態に変わった。2015年の不正経理発覚後、母体企業である東芝の経営方針は揺れ続けている。ブレイブルーパスの事業運営会社の資本金は1億円で、東芝が100%出資する。事業運営会社への移行は、母体の混乱による影響の回避につながるのか。「運営を直接行うメリットは大きい。意思決定が早く業務を素早く実行できる」と、チームOBは言う。「一方で会社だけにチームの成績そして収益に責任を持ち、本体(東芝)の株主にも説明が必要になる」

プロ化の先駆者であるサッカーのJリーグは、93年のスタートから一度もJ1の1試合平均観客数が1万人を割り込んだことがない。トップカテゴリーであるJ1の試合数は年間300以上。コロナ前の2019年には、J1の1試合平均観客数は2万人を超えていた。一方、肉体を酷使するスポーツであるラグビーは基本週1回しか試合ができず、リーグワンD1の年間試合数は96にとどまる。出場選手の数は1チーム15人とスポーツの中でも最も多く、人件費もその分増える。ラグビー独特のこの構造的な問題は、リーグワンが抱える大きなハンディキャップだ。

miake-kubota220411.JPG

クボタは試合会場に農業用トラクターを展示 Courtesy for Michinori Miake

3月27日、レッドハリケーンズは2位につけるクボタスピアーズ船橋東京ベイと対戦した。会場はクボタがホームの新潟市だ。農業機械を主力とするクボタはコメどころである新潟と縁が深い。「地域との共創」はリーグワンの理想でもある。スタジアム前にはクボタ製農業用トラクターが展示され、新潟米も販売された。

地域密着は、「事業力」「競技力」と並んでリーグワンの目標である「社会性」を実現するうえで欠かせない要素だ。スピアーズの石川充ゼネラルマネージャーは「日本海沿いで唯一のリーグワン公式戦。地域のラグビー普及に役立てたい」と語る。チームの社会力と競技力を支えるのは、健全な経営に裏打ちされた事業力であるのは言うまでもない。

リーグワン発足目前の2021年4月、50年の歴史をもつコカ・コーラボトラーズジャパンのラグビー部・レッドスパークスは新リーグへの加盟申請を取り下げた。事業再編の過程で、ラグビーチームがリストラにあった形だ。リーグワンに移行してチームの経営が自立すれば母体企業の負担は減るはずだが、その見通しがすぐに、そして容易に立たないからこそ、コカ・コーラは目前での参加断念に至った。

新リーグ発足前後に相次ぐチームの再編・廃部は、母体企業の経営合理化による退場・淘汰に他ならない。サニックスの赤字の理由は電力価格高騰によるコスト増だった。世界経済がインフレ基調にある中、他の母体企業がいつ同様の経営判断を迫られてもおかしくない。

経営者にとって自社の一部門のリストラに過ぎなくても、チームの再編・廃部は1人1人のラグビー選手にとって人生を左右する問題だ。日本ラグビーはかつて、厳格なアマチュアリズムで金銭と明確な一線を引いていた。その最高峰であるリーグワンが、ビジネスライクな自立したプロスポーツに変わるのはいつの日だろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中