ラグビー「リーグワン」で初年度にチーム再編や廃部が続く理由
ラグビーが抱える構造的な問題
NTTの新会社が発足すれば、事業運営会社がチームを経営するのは、リーグワンでは旧ヤマハの静岡ブルーレブズ、旧東芝の東芝ブレイブルーパス東京に次ぎ3社目になる。とはいえ主な出資元はいずれも母体企業であり、チームの運命は現在もその経営動向と密接に関わる。
かつてトップリーグで5回優勝した名門東芝ブレイブルーパス東京は、リーグワン参加に合わせ事業会社が運営を担う形態に変わった。2015年の不正経理発覚後、母体企業である東芝の経営方針は揺れ続けている。ブレイブルーパスの事業運営会社の資本金は1億円で、東芝が100%出資する。事業運営会社への移行は、母体の混乱による影響の回避につながるのか。「運営を直接行うメリットは大きい。意思決定が早く業務を素早く実行できる」と、チームOBは言う。「一方で会社だけにチームの成績そして収益に責任を持ち、本体(東芝)の株主にも説明が必要になる」
プロ化の先駆者であるサッカーのJリーグは、93年のスタートから一度もJ1の1試合平均観客数が1万人を割り込んだことがない。トップカテゴリーであるJ1の試合数は年間300以上。コロナ前の2019年には、J1の1試合平均観客数は2万人を超えていた。一方、肉体を酷使するスポーツであるラグビーは基本週1回しか試合ができず、リーグワンD1の年間試合数は96にとどまる。出場選手の数は1チーム15人とスポーツの中でも最も多く、人件費もその分増える。ラグビー独特のこの構造的な問題は、リーグワンが抱える大きなハンディキャップだ。
3月27日、レッドハリケーンズは2位につけるクボタスピアーズ船橋東京ベイと対戦した。会場はクボタがホームの新潟市だ。農業機械を主力とするクボタはコメどころである新潟と縁が深い。「地域との共創」はリーグワンの理想でもある。スタジアム前にはクボタ製農業用トラクターが展示され、新潟米も販売された。
地域密着は、「事業力」「競技力」と並んでリーグワンの目標である「社会性」を実現するうえで欠かせない要素だ。スピアーズの石川充ゼネラルマネージャーは「日本海沿いで唯一のリーグワン公式戦。地域のラグビー普及に役立てたい」と語る。チームの社会力と競技力を支えるのは、健全な経営に裏打ちされた事業力であるのは言うまでもない。
リーグワン発足目前の2021年4月、50年の歴史をもつコカ・コーラボトラーズジャパンのラグビー部・レッドスパークスは新リーグへの加盟申請を取り下げた。事業再編の過程で、ラグビーチームがリストラにあった形だ。リーグワンに移行してチームの経営が自立すれば母体企業の負担は減るはずだが、その見通しがすぐに、そして容易に立たないからこそ、コカ・コーラは目前での参加断念に至った。
新リーグ発足前後に相次ぐチームの再編・廃部は、母体企業の経営合理化による退場・淘汰に他ならない。サニックスの赤字の理由は電力価格高騰によるコスト増だった。世界経済がインフレ基調にある中、他の母体企業がいつ同様の経営判断を迫られてもおかしくない。
経営者にとって自社の一部門のリストラに過ぎなくても、チームの再編・廃部は1人1人のラグビー選手にとって人生を左右する問題だ。日本ラグビーはかつて、厳格なアマチュアリズムで金銭と明確な一線を引いていた。その最高峰であるリーグワンが、ビジネスライクな自立したプロスポーツに変わるのはいつの日だろうか。