最新記事

経営

「もう来なくていい!」は解雇になるのか リスクと対応策

2022年3月22日(火)10時45分
大山滋郎 ※経営ノウハウの泉より転載

■解雇する意図がなかった場合

一方、経営者としては本気で言ったわけではなかったような場合には、そのまま放っておくのはよくありません。解雇する意図がなかったとしても、その発言によって従業員が出社しなくなった場合、事実上の解雇となってしまうためです。

そこで、解雇する意図がなかった場合には、従業員側に連絡して、発言についてはお詫びするとともに、経営者としては解雇するつもりはなく、会社に復帰するように伝えることが必要となります。

伝え方については、後で証拠が残るように、メールなどの文書の形でも行うことが望ましいといえます。会社が真摯に謝罪し、戻ってくるように伝えたとしたら、会社が"不当解雇"したということで、従業員側から法的責任を追及される可能性は低くなるからです。

パワハラとされる可能性

また、経営者側に解雇の意図があったかどうかにかかわらず、「もう来なくていいから」というような経営者の発言は、"パワハラ"と認定される可能性もあることも念頭においておかなくてはなりません。

このような発言は、多くの場合、従業員側により録音されていると考えた方がよいでしょう。当事務所で扱った労働事件でも、非常に多くの案件で、経営者側の不適切な発言が録音されていました。

パワハラ単独として訴訟にまで発展する可能性は、必ずしも高くはありませんが、不当解雇とセットにして、訴訟等や労働審判で責任追及が行われることはよくあります。日頃からこのようなリスクがあることを頭の片隅においておき、行き過ぎた言動をとらないように注意をしておくべきでしょう。

会社のダメージを最小限にするポイント

以上で見てきたように、従業員を最終的に解雇するのは非常にハードルが高いです。正式な解雇通告の場合ですら容易ではないので、本件のように「もう来なくていいから」といった発言による場合はなおさらです。

ただ、経営者側が従業員にここまでの発言をするというのは、従業員側にも言われるだけの理由がある場合もあります。筆者が経験した案件で、経営者が思い余って事実上の解雇を伝えたような事案では、従業員の勤務態度など相当問題のある事例でした。しかし、従業員側に問題があったとしても、今の日本の労働法では、簡単に従業員を解雇することはできません。

このような事案では、労働審判での協議や、裁判になったとしても和解で解決されることが多いです。解決に至るまでの話し合いの中では、「もう来なくていいから」と経営者が言わざるを得なかった事情や、そのもとにある従業員側の問題点などを丁寧に説明することがポイントになります。こうすることによって裁判に勝つことは難しいにせよ、会社のダメージを抑えて、"うまく負ける"ことは可能になってきます。

最後に

現代では、従業員側の権利意識が非常に高くなってきています。"労働者の権利"についても、ネットを検索すればすぐに情報が手に入ります。また、多くの従業員が、関係の悪くなった経営者の失言を逃さずに、録音をしているという事実もあり、パワハラとして争われるリスクもあります。

そんな中で、軽い気持ちで「もう来なくていいから」などと発言すると、とんでもない不利益が会社に生じる可能性があるので、十分に注意しないといけません。本稿を参考にして、従業員対応は細心の注意をもって行うとともに、何かあった場合は、弁護士など専門家に相談するようにしてください。

2021.10.25

[執筆者]
大山滋郎
横浜パートナー法律事務所 代表弁護士
東京大学法学部卒。メーカー在籍中に米国のロースクールに留学し、ニューヨーク州弁護士の資格取得。その後、勤務のかたわら司法試験に合格。外資系大手弁護士事務所在籍を経て、2007年4月1日より独立開業。現在7名の弁護士が在籍しています。一部上場のメーカーの法務、知的財産部に15年以上在籍した経験を生かして、企業法務のサポートを行います。

※当記事は「経営ノウハウの泉」の提供記事です
keieiknowhow_logo200.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年

ワールド

ハセット氏、FRBの独立性強調 「大統領に近い」批

ビジネス

米企業在庫9月は0.2%増、予想を小幅上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中