最新記事

住宅ローン

変動金利型と固定金利型のどちらの住宅ローンを選択すべきか──市場動向から最適な住宅ローンの借入戦略について考える

2022年1月26日(水)17時21分
福本勇樹(ニッセイ基礎研究所)

このような根本的な悩みに対して、住宅ローンを検討する際に「金利上昇局面になってから機動的に固定金利型で借りればよい」という選択は本稿では推奨しない。その理由として、「一般的に金利上昇する際は変動金利型よりも固定金利型の方が早く適用金利が上昇するため」「将来の金利上昇を予測するのは難しいため」「住宅ローンの債務者は金利リスクをヘッジする手段に乏しいため」の3つが挙げられる。

これらの留意点を踏まえると、変動金利型の住宅ローン債務者が金利上昇リスクに備える手段は、金利上昇する前に住宅ローンの一部(または全て)を固定金利型で借り入れるか、将来の環境変化や損失に備えて預貯金などでリスクバッファを確保しておくくらいしかない。

1つ目の変動金利型と固定金利型の組合せ(ミックスローン)の活用については、金融理論では、相反するリスクをもつ金融商品をポートフォリオに組み入れると分散効果が働くことが知られている。元利均等返済で住宅ローンを取り組む前提だと、変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットは相反している。このような相反関係にある金融商品は、金融理論から「組み合わせた方がよい」という答えが導かれる。どのような割合で取り組めばいいのかは、住宅ローンを借り入れる個人のリスク許容度に依存する。つまり、変動金利型で取組時の固定金利型を超えるような金利上昇が生じても、住宅ローンの返済が問題なく行える程度に収入と金融資産を保有しているのであれば、変動金利
型の割合を大きくしても問題はない。一方で、変動金利型で取組時の固定金利型を超えるような金利上昇が生じた際に、住宅ローンの返済が困難になるようなギリギリの収入水準や金融資産なのであれば、当初より返済額は大きくなるが固定金利型の割合を大きくした方がよい。

2つ目の「預貯金などの金融資産でリスクバッファを確保する」は、低金利環境が今後も長く継続すると期待できるのであれば、相対的に低利の変動金利型住宅ローンを借り入れ、毎月の返済額を抑制しながら借入残高を減らしつつ、余裕が生じた分をリスクバッファとして預貯金などに回すという発想である。預貯金などのリスクバッファをもつことで金利上昇が生じた際の返済額の増加に対処できるだけでなく、繰り上げ返済の原資としても活用できる。繰り上げ返済を行えば、金利上昇が生じても将来の利息支払いの負担がある程度抑制できる。さらに預貯金などでリスクバッファを確保しておくと、教育資金などで急な出費が必要になる際の資金に充てることもできる。

3―リスクバッファ付き変動金利型住宅ローンの効果検証

前項では、変動金利型住宅ローンを借り入れる際にとりうる対応策として2つの方法を紹介した。低成長・低インフレ・低金利が長く継続している状況から、しばらく「金利上昇はない」との判断で変動金利型住宅ローンを借り入れるのは自然な発想のように思われる。しかしながら、日本の経済成長率やインフレ期待が改善し、それに応じて日本銀行が金融緩和政策を縮小または解除すれば、金利上昇はまず間違いなく生じることになる。35年等の長い期間で変動金利型住宅ローンを借り入れると、1~2%程度の適用金利の上昇がいずれ生じる可能性は否定できない。先に触れたが、もしかすると訪れるかもしれない将来の金利上昇に個人が備えることのできる手段は限られているため、本稿で提案したようなミックスローンや預貯金等での積立も組み合わせて対応していくことが望ましいだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏関連資料、司法省サイトから削除か エプス

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中