最新記事

パンデミック

ゲーム機メーカーの苦悩続く サプライチェーン混乱、輸送費が前年の5倍に

2021年12月18日(土)11時45分

東莞市の工場では、青いガウンと白いキャップを着用した従業員らが列をなし、ゲーム機の組み立てとチェックにあたっている。

工場で取材に応じたフェン氏は、10月には状況が緩和したように思えたと語る。しかし、オミクロン変異株が出てきてからは「以前のような状態に戻れるのか、心配は尽きない」。

何もかも異常

T2Mはボストンの倉庫に製品を届ける新たなルートを探らざるを得なくなった。同社には通常、月に1、2個のコンテナが届く。1個につき4万台の機器を収納できる。

過去には最短距離でコストの安いパナマ運河経由のルートで輸送していたが、港湾の混雑によってこのルートの利用は難しくなった。今では、コンテナはロサンゼルス港に着いた後、鉄道でニュージャージー州ニューアークの通関に送られ、そこからトラックでボストン郊外の倉庫に届く。その後、製品を仕分けしてケンタッキー州にある小売り大手の配送センターにトラックで届けるという手順だ。

しかしここ数カ月、何もかも通常通りには進まなくなった。9月にはゲーム機を積んだ貨物船がロサンゼルス港で3週間も足止めされる事態。タウンリー氏は締め切りに間に合わせるため、製品が荷下ろしを終えるとニューアークを経由せずケンタッキーに直送しようと試みたが、「あいにく、通関の人々だけは頑として認めてくれなかった」という。

結局、中国からシカゴ経由でテネシー州に航空貨物で直接運ぶという解決策に至った。その結果コストは跳ね上がり、コンテナ1個を中国から倉庫に輸送するコストは約1万8000ドルになった。去年の今ごろは3500ドル、実に5倍以上だ。

ゲーム機が倉庫に着けば一件落着というわけではない。トラック運転手の確保が至難の業になったため、タウンリー氏は自分でトラックを買うことまで考えたが、結局やめた。

小さな企業だけに、顧客にコストを転嫁できる力はない。その代わりコスト削減に励んだ。タウンリー氏はゲーム機を手に取ると、色とりどりのボタンを指さして見せる。この色を諦めて黒に統一することで、1台当たり0.5ドルのコストを節減したという。ゲーム機のサイズもわずかに小さくし、機器の格納に使うプラスチック製の部品も1つ減らした。

中国から届いたパレットにどこで穴が空いたかは、ほぼ特定できた。東莞工場のフェン氏はコンテナ収納前にすべてのパレットの写真を撮っており、出荷前にできた傷ではないことはすぐに確認できる。このコンテナはニュージャージー州の通関審査のためにフォークリフトで引き降ろされたため、その際についた傷に違いないとタウンリー氏は確信している。

(Timothy Aeppel記者、Xiaoyu Yin記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ステフィン・カリー、嘘みたいなロングシュート成功…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中