日本の仕事と生活の現場から「孤立」をなくす、通信インフラ「第三の道」
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順調に普及していったPLCアダプターだったが、2008年頃からスマートフォンの普及が進み、無線LANの規格のひとつであるWi-Fiを導入する家庭が増えたことが逆風となった。
しかし2017年に、再び大きな転機が訪れる。PLCアダプター自体が中継器の役割を果たし、複数のPLCアダプターを使うことで情報信号をバケツリレーのような形で送る「マルチホップ技術」が実用化。2km以上離れた場所でも通信することができるようになり、有線LANやWi-Fiとは別の明確な特長を持つようになったのだ。また、その4年前の2013年にはHD-PLCが国際規格IEEE 1901として制定された。
マルチホップ技術によって、それまで主に家庭用だったPLCアダプターは、BtoBの産業向けに活用されることになっていく。長距離にわたって情報信号の伝達を行う産業用では、配線工事にかかるコストを大幅に削除し、配線削減によって工期を短縮するといったメリットが最大限に発揮される。
壁や天井、分電盤が通信の障害になることもなく、LANケーブルの施工時に建物の躯体を損傷させることも軽減できる。さらに機器や設備のメンテナンス性が向上するなど、多数のメリットを享受できるようになった。
●マルチホップ機能の仕組み
幅広い用途で実用化が始まっているHD-PLC
駅のホームにおける監視カメラの設置や、地下駐車場での自動車用充電器の使用状況に関するデータ収集、牛舎での牛の行動や健康管理に関するデータ取集などHD-PLCはすでにさまざまな場所で採用されている。
例えば、長野県の旅館「山野草の宿 二人静」では、館内での宿泊客向け無線LANサービス環境を整備する際、LANケーブルを1~5階を貫いて縦に配線するのでは、大規模な工事と想定以上の費用が必要になることが判明した。
そのため、代わりにPLCアダプター6台を導入したことで工事費を大幅に削減でき、工事による建物への負担も軽減できた。建築物への負担が少ないことから、今後は重要文化財のインフラ整備にも使われるようになりそうだ。
最近の事例では、コロナ禍によるリモート授業の増加に対応するため、名古屋大学の外国人研究者・留学生向けの寮が、159台のPLCアダプターを導入した。できるだけ費用を抑え、工期を短くしたいという意向からHD-PLCの採用を決定。LANケーブルを施工する方法と比較して、工事費用は約1/4にまで抑えることができ、工事自体はわずか3日で完了した。
また九州新幹線の新長崎トンネル(長さ7460m)では、トンネル内部に携帯電話や無線の電波が届かないことが問題視されていた。非常時の連絡手段が必要だっただけでなく、メンテナンスなどを行う作業員が外部と通信する手段がない状況を強いられていたからだ。
また湿度が高いトンネル内においては、LANケーブルを施工する場合はケーブルの品質維持という問題が生じ、100mを超える長距離施工に関してはHubでケーブルを連結しなければいけないなどの課題があった。そこで、18台のPLCアダプターを導入したところ、マルチホップ技術によってトンネル全体で問題なく外部との通信が実現。もちろん工事費用も大幅に削減された。