最新記事

仮想通貨

仮想通貨が利子収入を生む「レンディング」、年利6%でも得と言い切れない訳

2021年9月8日(水)11時27分
千野剛司(クラーケン・ジャパン代表)

このほかCeFiのレンディングサービスは、伝統的な金融機関と関係が近いことから、DeFiよりUI・UXがユーザーフレンドリーであるところが特徴です。また、法定通貨での円滑な支払いや安定した金利の支払い、そして顧客サポートの充実などがCeFiの特徴としてあげられます。

以下が、一般的なCeFiのビジネスモデルです。
1. CeFiプラットフォームAが預金者に預金の対価として5%の年利を支払うと宣伝する。
2. ユーザーXがAに1BTCを預ける。
3. CeFiプラットフォームAがトレード企業Bに対して1BTCを8%の年利で貸す。
4. CeFiプラットフォームAがユーザーXに対して5%の金利を支払って3%のスプレッド(金利差)を得る。

CeFiのビジネスモデル

210908kr_ce03.png

(出典:Kraken Intelligence)

このほか、トレーディングや財務のマネジメントを根拠に金利の支払いをする企業もあります。

ユーザー、トレード企業、そしてプラットフォームの三者はウィンウィンウィンの関係にあるように見えるかもしれません。しかし、ユーザーである預金者は、受け取る金利を額面通り捉えるのは危険かもしれません。利用するCeFiプラットフォーム特有のリスクや通貨リスクを考慮に入れた上で、利子率の高低を判断する必要がありそうです。

通貨リスク

まず、仮想通貨自体に内在するリスク「通貨リスク(Currency Risk)」について考えてみましょう。今回はイーサリアムのケースを取り上げます。

イーサリアムの年間発行額は1800万ETHで、2021年6月時点では約1億1600万ETHが市場に流通しています。市場の流通量は年々増える一方で年間発行額は変わりませんから、イーサリアムの希釈率(dilution rate)は減少します。2021年6月時点では、年間で3.77%流通量の増加があるため希釈率は3.77%ということができます。

クラーケンの研究チーム「クラーケン・インテリジェンス」は、イーサリアムの場合は、この希釈率がハードルレート(投資を行ううえで、最低限確保すべき利回り)に相当すると考えています。

イーサリアムでは、毎年の新規発行によってインフレが生じ、ETHの購買力が低下するため、これを補うためには、上記の希釈率を上回る利回りの確保が必要となります。CeFiが提供する額面通りの利子率が投資を行ううえで合理的な水準かどうか判断するには、この通貨リスクに加えて、次に説明するプラットフォームのリスクも考慮に入れなければなりません。

プラットフォームリスク

プラットフォームリスクとして、ここでは「デフォルト・リスク」、「カストディアン・リスク」及び「信用・透明性リスク」の3つに分けて考察します。

デフォルト・リスク

デフォルト・リスクは、資金の借り手が返済できなくなるリスクを指します。一般的にCeFi側は借り手が担保に出す資金の5割ほどしか借り入れを認めていません。CeFi側は、担保が一定水準を下回ったり借り手が積み増しに失敗したりするときに、担保を売ります。

問題は、市場が暴落する時です。暴落によって複数の投資家が担保となっていた資産を一斉に引き上げることになり、その時、CeFi側が資金の預け手に対して利子の支払いができなくなる可能性が出てきます。最悪の場合は、デフォルトにつながり、投資家はCeFiに預けていた資金を全て失うことになります。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中