中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
2つ目の変化は異国情緒が味わえる観光地が人気であることだ。その一例が、マカオである。マカオは感染者数が少なく、中国大陸の観光客を誘致するためにさまざまな策を講じている。例えば日本の「GoToトラベル」のような、一定額以上の買い物をすると、買い物券・旅行券はもちろん、フォーシーズンズなど高級ホテルの宿泊券がもらえるキャンペーンも行っている。
宿泊券の場合は、本人が3カ月以内にマカオを訪れなければいけない条件があるが、確実にリピーター育成につながる。実際、上海や北京に住んでいる若い富裕層は、中国国内でいちばん「異国情緒」を感じられるのはマカオだと認識しているようだ。インタビューでも月1回程度、飛行機でマカオに行くという話が多々聞こえてきた。
3つ目の変化は、ホテルだけではなく、中国国内でも海外並み、ないしはそれ以上のサービス・体験ができるようになっていることだ。数年前まで先進国でしか体験できなかったことが中国国内でもそれ以上にできるようになっている。
今回のインタビューで印象深かった一例は、高級ジュエリーのティファニーが手掛ける「ティファニーカフェ」だ。東京にもあるティファニーカフェだが、上海のほうが規模も大きくメニューも圧倒的に多い。
当初は中国人富裕層は国内しか遊びにいけないため、仕方がなく中国国内のコンテンツを楽しんでいたが、いまや中国国内のほうが国外よりも楽しめる状況になってきているのかもしれない。
回復を下支えしている要因
こうした中国国内の観光業を下支えしているものは、2つあると考えられる。1つ目は全国規模の「健康QRコード」がコロナ感染の拡大をコントロールしていることである。
昨年3月の記事でもご紹介したとおり、ビッグデータを駆使している中国では、感染者との接触経歴、自己申告などに基づき、スマホに表示されるQRコードの色が変わる。どこにいってもよいのは「緑」で、緑であれば普通に生活・移動することができる。
「赤」「黄」では自宅などで隔離する必要がある。もちろん、現地の人からすれば不要だと思われる隔離政策もあるようだが、それでも「多少の不自由はあっても、トータルに考えたときに有効な方法だ」と考えている人々が大多数のようだ。
ちなみにインタビューした中国人富裕層は日本の新型コロナウイルス接触確認アプリのCOCOAの不具合や、感染者数のファックス送信や手動入力に仰天していたが、「自粛だけで感染をコントロールできてえらい、さすが日本」と感心もしていた。
2つ目の理由は最近のチャイナブームだ。日本にいると見方が違うかもしれないが、中国はコロナ感染状況を抑え込んだ国の1つでもある。
その結果、若い人たちには愛国心の高まりも見られつつある。また、国内のサービス業、ブランドは年々レベルアップしており、若者の中では「中国のよさを再発見しよう」という共通認識が形成されている。特にコロナ禍の観光では、今まであまり注目されなかった地方においても、センスがよいホテルも登場し、新しい人気スポットになっている。
富裕層の日本に対する関心
中国国内の観光業はコロナ禍の中で、健康QRコードやチャイナブームといった相乗効果により、回復傾向にある。日本の観光業にとっては今まで相手にならなかったかもしれないが、今後「小旅行」「高級リゾート週末」などのジャンルにおいて、中国の観光業がライバルになる可能性がある。
ただその一方で、日本の観光業にとって希望が持てるデータも存在する。中国の旅行サイトCtripの調査では中国人が海外旅行解禁された後にいちばん行きたい国は日本だった。また、コロナが収束すれば、中国人の海外旅行は2022年にはコロナ前の2019年に戻るとの予測もある(中国出境游研究所)。
さらに今年の春節の中国で大ヒットになった映画『僕はチャイナタウンの名探偵3』(中国公開2021年2月12日、日本公開は延期)のロケ地は日本である。長澤まさみ、妻夫木聡など人気の俳優たちも参加し、中国版ツィッターのweiboで「はやく日本に行きたい」とのつぶやきもある。
前出のLulu氏の話を聞いても「周りの富裕層、ブロガーの友達は、今いちばん行きたいのはやはり日本だ」という。理由を聞くと、「中国国内の観光はハードの部分が急成長しているが、ソフトの部分はやはり日本にかなわない」ためだ。
「日本は近いし、食事もおいしいし、サービスが素晴らしい。細かいところまでデザイン性が高く、包装のレベルの高さにいつもドキドキする。ヨーロッパほどブランド品は安くはないが、本物だし、日本の化粧品のほうが中国人に合う」と話す。