中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
訪日中国人富裕層に人気も高かった隈研吾氏デザインの東大内のカフェ(写真:筆者撮影)
世界でワクチン接種が始まっている今、オリンピックなど、観光産業の復興についての議論が再び視野に入ってきた。特に日本の観光産業を支えてきたと言っても過言ではないインバウンドはコロナ禍で一気に蒸発し、日本の観光産業に大きくダメージを与えている。
2014年からインバウンド、特に訪日中国人富裕層の動向を研究している筆者が知っている範囲でも、多くの企業や自治体が、消費金額と影響力が高い訪日中国人富裕層の誘致に取り組む予定だったのが、コロナ禍のため頓挫してしまい、「これからも来てくれるのか」と不安に思っている。
そこで今回は、中国の大都市に居住する若い富裕層(20~30代、世帯年収3000万円以上、資産2億円以上)9人にインタビューを実施。彼らは欧米への留学経験があるエリート層で、親日でもあり、日本の観光業にとっては欠かせない層である。さらにインタビューと合わせて、コロナが落ち着きつつある中国国内の観光事情も紹介する。
コロナ前の状態に戻りつつある
日本ではまだまだ待ち遠しい「旅行」だが、中国では国内旅行が堅調で、回復傾向にある。春節で移動は制限されたものの、40日間で延べ17億人が移動したと報じられている。
今年の春節の移動者数はコロナ流行前の2019年と比べると4割程度少ないが、北京市の旅行収入は2020年の2.9倍になった。また、中国の真南に位置する海南島の離島免税品(中国国内にいながら買える免税品)売り上げは前年に比べ261%増の9億9700万元(約158億円)になった。徐々にコロナ前の状態に戻ってきていることがうかがえる。
富裕層たちへのインタビューによれば、昨年の初夏から今まで通りに国内旅行・出張をするようになったが、コロナ以前と比較すると大きく3つの変化が見られたようだ。
その1つ目は、中国国内のホテルや周辺の観光施設のレベルアップが著しいことだ。コロナ感染への心配もあり、最近の中国人はホテル内で楽しむ傾向が高い。上海や広州など大都市はもちろん、雲南省、四川省、福建省といった地方都市への関心もますます高くなっている。
富裕層を代表する旅行ブロガーのLulu氏は、「(仕事で世界中のいいホテル、リゾートに泊まっているが)この1、2年、国内のホテルのレベルアップは速い」と話す。特に中国国内のホテルのいちばんの弱点である「美意識」や「デザイン」が、近年海外でデザインの仕事をして帰国したデザイナーや、海外のデザインチームに発注することで改善されつつある。
中国人は世代と居住地の違いによって美意識に大きなギャップがある。50代以上の富裕層なら部屋の大きさなど貫禄あるデザインを好む。一方、無印良品のブランドを冠する「MUJIホテル」のような、「わびさび」の日本文化と美意識は若い世代に強く影響を与えている。そのため若い人たちは洗練されたデザイン(日本・先進国で称賛されたテイスト)を好む。「ミニマリズム」「シンプルで上品」そして「自然環境が良い」ホテルへのニーズが増えているのだ。
インテリアも購入できる高級ホテル
富裕層やブロガーの中で人気がある、雲南省のHyllaはその一例である。部屋から観光名所の玉龍雪山の絶景雲海が見えるよい立地にあるだけでなく、コンセプトからインテリアまで徹底的に若い世代の富裕層のニーズを意識して設計されている。
例えば、Hyllaにはアンティークの家具を扱うパートナーがいる。高価なSirocco chair、The Spanish Chair、ルイスポールセンのフロアランプ、イサム・ノグチのテーブル......、と、洗練された空間で宿泊客を魅了しているのだ。
なお、部屋ごとにデザインが異なり、気に入った家具・インテリアがあったら宿泊者は購入することも可能だ。
こうしたショールーム型のホテルは北欧や日本でも少しずつ増えている。高級で洗練されたセンスが良い家具やインテリアの使用感を試してみたい中国人富裕層にとっては嬉しいサービスである。
また、ホテルに泊まるたびにインテリアが販売されるため、部屋のデザインも変化している。そのためリピーターになりやすい。
つまり、週末や小旅行なら中国国内でも満足できそうな状況になりつつあるのだ。