EVはもうすぐ時代遅れに? 「エンジンのまま完全カーボンフリー」を実現するあるシナリオ
レシプロエンジンからEV化の流れの一方で多くの自動車メーカーが水素で走る燃料電池車の開発に力を入れている。Tramino - iStockphoto
地球規模の温暖化問題をうけて欧州を中心に世界各国で内燃機関のエンジンを禁止しEVへ切り替える潮流が加速している。そんななか、自動車マニアでブランディングコンサルタントの山崎 明氏は製造段階も含めたカーボンフリーの重要性を唱える。
マツダMX-30のEV版に試乗してみた
先日、マツダMX-30のEV版を試乗する機会を得た。EVに試乗するたびに思うのだが、街中で一般的な移動目的で車に乗る場合、ガソリン車と比べてEVのほうが快適である。
まず静かで振動が少ない。さらに加速性能にも優れる。EVは高速域になると加速力が衰える傾向があるが、停止からの出足、また一般道での60km/hあたりまでの俊敏さはガソリン車より圧倒的に勝る。ほとんどのEVはバッテリーを床下に搭載しており、低重心で安定性も高い。
つまり日常使いでは良いことずくめなのである。
では、なぜ普及しないのか。主たる理由は皆さんご存じの通り高価であること、そして航続距離が短く、電気がなくなると充電に時間がかかることだ。自宅車庫で一晩充電して、その範囲内だけで車を使うならガソリンスタンドに行く必要もなく便利だが、それを越えると極めて不便なものとなる。
バッテリー容量の問題をどう考えるか
MX-30のEVもご多分に漏れず航続距離は短い。カタログ値では256kmだが、現実的には200km弱といったところで、出先で30分急速充電しても得られる走行距離は100km程度だろう。ガソリンモデルであれば満タンで600km程度は走れると考えられるのでこの差は大きい。
MX-30のバッテリー容量は35.5kWhで、日産リーフの40kWh~62kWh、フォルクスワーゲンID.3の45kWh~77kWh、テスラモデル3の55kWh~75kWhと比べても見劣りする。これだけ見るとMX-30のスペックが頼りなく思えるが、マツダは熟慮の末この容量に決定したという。
EV、というよりもリチウムイオン電池の生産には多くの電力を必要とする。火力発電が主力の現状では、EVは生産時に多くのCO2を排出することになる。もちろん、ノルウェーのように電力がすべて再生可能なグリーン発電の場所で生産すればCO2問題はないが、日本で生産する以上この問題は避けられない。日本の火力発電比率は75%、EUは40%である(2019年)。
火力発電比率の高いエリアではハイブリッドがベター?
MX-30のEVは欧州市場をメインに企画された商品のため、日本で作って欧州で使われるということを念頭に置き、生産から使用におけるCO2排出量のシミュレーションを行うと、ディーゼルエンジン搭載車と比較してCO2排出量が走行距離8.6万kmの時点でイーブンになるのが35.5kWhという容量とのことだ。
航続距離を伸ばそうとして大容量バッテリーを積んでしまうと生産時のCO2排出量が大きく増えてしまい、イーブンになる走行距離はその分増えることになる。
マツダはバッテリーの寿命は16万kmと想定しているということで、このバッテリー容量であれば生産から廃車にいたるプロセスで十分なCO2削減効果が得られると判断、この容量に決めたということである。
日本で使用する場合は、火力発電比率が高いため使用におけるCO2排出量が欧州よりも多くなってしまうので、より多く走行しないとCO2削減効果が得られない。日本では10万~15万km程度で廃車になるケースが多いと考えると、MX-30のバッテリー容量でもCO2削減効果はあまり得られないということになる。
これはCO2排出量の少ないディーゼル車との比較なので、ガソリン車との比較では多少の削減効果はあるかもしれない。しかし最新のハイブリッド車であればディーゼルよりさらにCO2排出量は少なく、火力発電比率の高いエリアではEVよりハイブリッドのほうが環境に優しいと考えるべきだろう。