最新記事

自動車

EVはもうすぐ時代遅れに? 「エンジンのまま完全カーボンフリー」を実現するあるシナリオ

2021年3月21日(日)16時35分
山崎 明(マーケティング/ブランディングコンサルタント) *PRESIDENT Onlineからの転載

レシプロエンジンからEV化の流れの一方で多くの自動車メーカーが水素で走る燃料電池車の開発に力を入れている。Tramino - iStockphoto


地球規模の温暖化問題をうけて欧州を中心に世界各国で内燃機関のエンジンを禁止しEVへ切り替える潮流が加速している。そんななか、自動車マニアでブランディングコンサルタントの山崎 明氏は製造段階も含めたカーボンフリーの重要性を唱える。

マツダMX-30のEV版に試乗してみた

先日、マツダMX-30のEV版を試乗する機会を得た。EVに試乗するたびに思うのだが、街中で一般的な移動目的で車に乗る場合、ガソリン車と比べてEVのほうが快適である。

まず静かで振動が少ない。さらに加速性能にも優れる。EVは高速域になると加速力が衰える傾向があるが、停止からの出足、また一般道での60km/hあたりまでの俊敏さはガソリン車より圧倒的に勝る。ほとんどのEVはバッテリーを床下に搭載しており、低重心で安定性も高い。

つまり日常使いでは良いことずくめなのである。

では、なぜ普及しないのか。主たる理由は皆さんご存じの通り高価であること、そして航続距離が短く、電気がなくなると充電に時間がかかることだ。自宅車庫で一晩充電して、その範囲内だけで車を使うならガソリンスタンドに行く必要もなく便利だが、それを越えると極めて不便なものとなる。

バッテリー容量の問題をどう考えるか

MX-30のEVもご多分に漏れず航続距離は短い。カタログ値では256kmだが、現実的には200km弱といったところで、出先で30分急速充電しても得られる走行距離は100km程度だろう。ガソリンモデルであれば満タンで600km程度は走れると考えられるのでこの差は大きい。

MX-30のバッテリー容量は35.5kWhで、日産リーフの40kWh~62kWh、フォルクスワーゲンID.3の45kWh~77kWh、テスラモデル3の55kWh~75kWhと比べても見劣りする。これだけ見るとMX-30のスペックが頼りなく思えるが、マツダは熟慮の末この容量に決定したという。

EV、というよりもリチウムイオン電池の生産には多くの電力を必要とする。火力発電が主力の現状では、EVは生産時に多くのCO2を排出することになる。もちろん、ノルウェーのように電力がすべて再生可能なグリーン発電の場所で生産すればCO2問題はないが、日本で生産する以上この問題は避けられない。日本の火力発電比率は75%、EUは40%である(2019年)。

火力発電比率の高いエリアではハイブリッドがベター?

MX-30のEVは欧州市場をメインに企画された商品のため、日本で作って欧州で使われるということを念頭に置き、生産から使用におけるCO2排出量のシミュレーションを行うと、ディーゼルエンジン搭載車と比較してCO2排出量が走行距離8.6万kmの時点でイーブンになるのが35.5kWhという容量とのことだ。

航続距離を伸ばそうとして大容量バッテリーを積んでしまうと生産時のCO2排出量が大きく増えてしまい、イーブンになる走行距離はその分増えることになる。

マツダはバッテリーの寿命は16万kmと想定しているということで、このバッテリー容量であれば生産から廃車にいたるプロセスで十分なCO2削減効果が得られると判断、この容量に決めたということである。

日本で使用する場合は、火力発電比率が高いため使用におけるCO2排出量が欧州よりも多くなってしまうので、より多く走行しないとCO2削減効果が得られない。日本では10万~15万km程度で廃車になるケースが多いと考えると、MX-30のバッテリー容量でもCO2削減効果はあまり得られないということになる。

これはCO2排出量の少ないディーゼル車との比較なので、ガソリン車との比較では多少の削減効果はあるかもしれない。しかし最新のハイブリッド車であればディーゼルよりさらにCO2排出量は少なく、火力発電比率の高いエリアではEVよりハイブリッドのほうが環境に優しいと考えるべきだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

制約的政策、当面維持も インフレ低下確信に時間要=

ビジネス

米鉱工業生産、3月製造業は0.5%上昇 市場予想上

ワールド

米中、軍事対話再開 22年以来初めて

ワールド

中東巡る最近の緊張、イスラエル首相に責任=トルコ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中