最新記事

人民元

日本人が知らない「人民元」73年の歴史──5つの転機があった

THE MOMENTS OF GIANT LEAPS

2021年3月3日(水)16時45分
前川祐補(本誌記者)

――為替取引のインフラが出来上がったわけだが、第3のステップは?

2015年に事実上、自由な人民元の取引ができるようになったことだ。この年を境に人民元はより「普通」の通貨になった。

変動相場制に移行した2005年からの10年間はドルに対して緩やかに元高が進んできたが、一時期を除けば元安にはならなかった。通常の為替取引においてそうした動きはまれで、元安にもなれば元高にもなる。

中国政府はこの年に人民元の対ドルレートを大幅に切り下げた。人民元の崩壊などとも報じられたが、実態は市場の動きをより正確に為替に反映させるための措置だった。

今でも変動幅の制約はあるものの、対ドルレートの1日の変動率を見ると、円/ドルやドル/ユーロなどの主要通貨の為替変動と大きく変わらない。

――「普通」の通貨にした理由は?

それは4つ目のターニングポイントであるIMFの制度、SDR(特別引き出し権)の構成通貨になることと関係する。IMFは5年ごとにSDRの構成通貨を見直すが、2015年がその年だった。

構成通貨となるには市場の実勢に近い為替レートが担保されていなければならず、そのためIMFにアピールする意味で市場の動きを反映させる為替政策を進めたのだろう。

結果、2015年11月のIMF理事会で人民元はSDRに採用された。SDRは非常時に使われる準備資産のため日常の金融取引では大きな意味を持たないが、世界で5つの通貨しか採用されておらず、重要な国際通貨としての象徴になる。

――では5つ目のターニングポイントは?

中国国内の債券と証券の取引自由化だ。人民元建ての金融資産の取引が増すことで為替取引も活発化する。

この際に重要な役割を果たしたのがボンドコネクト(債券通)。これは国外の投資家が中国本土の債券を香港市場で売買できる仕組みだ。

本土の市場で直接売買することもできたが、債券通を使ったほうが投資額や取引時間などの制約が少ないので簡単だった。実際、この仕組みの導入後に取引は大きく拡大した。

ここに挙げた5点には含めなかったが、中国人民銀行が各国の中央銀行とスワップ協定を結んだことも、人民元の国際化において重要な出来事だった。

日本とも締結しているが、これは例えば金融市場の混乱などで日本の金融機関や企業が人民元を市場で調達できなくなった場合に、日銀が中国人民銀行を通じて日本円と人民元を交換して市場に融通させる仕組みだ。もちろん逆のパターンもあり得る。

いわば火事が起きた際の消防署のような役割を果たしてくれるわけで、火事は頻繁には起きないが、起きたときに対処できる措置を得たことは人民元の国際化にとって必要な金融インフラだったと思う。

――アジアインフラ投資銀行(AIIB)や一帯一路を人民元の国際化を図る手段とみる向きも多い。

AIIBの融資はドル建てが基本で人民元の割合は小さい。借り手にしてみればそのほうが(為替リスクの心配も少ないため)使いやすいからだ。少なくとも現段階では人民元の普及のツールにはなっていない。

これは(創設以来、日本人が総裁を務める)アジア開発銀行(ADB)でも円よりドルを多く使っているのと似ている。一帯一路も同じで、通商政策的な側面が強く、人民元の国際化とはさほど関係がない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英、対米医薬品協定を正式決定 対米関税ゼロに

ワールド

ロシア・イラン外相が電話会談、ホルムズ海峡の安全巡

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、5万3000円回復 自律

ワールド

アルゼンチン、イラン臨時代理大使を国外追放 攻撃関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 6
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 9
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 10
    200年前の沈没記録が裏付けられた...捕鯨船を海の藻…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中