コロナショックで岐路に立つ製造業の「現地現物主義」 メーカーはAIに活路
ただロボットに対しては、特定製品で発生し得る何万種類もの欠陥を教えて、即座に学習させる必要がある以上、品質検査の自動化は並大抵のことでは実現できない。
それでも武蔵精密工業の場合は、効率的なAIアルゴリズムの開発に際し、十分な欠陥の事例を用意することなく、部品5万個当たり1個という非常に低い不良率を達成している。
その秘密は、イスラエルの起業家ラン・ポリアキン氏がもたらした技術にある。同氏はAIと、以前に同氏が医療診断技術に用いていた光学技術を組み合わせ、生産ラインの検査に応用したのだ。検査装置には不良品の見分けではなく、完全ないし完全に近い部品の見分け方を覚え込ませようという考え方に基づいている。
補完関係
技術的な難関を突破した後、ポリアキン氏が率いる新興企業シックスアイと武蔵精密工業は、合弁会社「Musashi(ムサシ)AI」を設立し、史上初の品質検査ロボットの開発に取り組んだ。
ポリアキン氏によると、新型コロナの感染が世界中に広がった3月以降は、日本だけでなくインド、米国、欧州各地の自動車メーカーや部品会社などからの問い合わせが4倍に膨らんだ。
同氏は「新型コロナで動きが加速し、全面的に強まっている。なぜなら在宅勤務がテレワークの有効性を証明しつつあるからだ」と述べた。
日本とイタリアを事業の本拠としている自動車関連サプライヤーのマレリも、日本の工場でAI搭載の品質検査ロボットを導入。7月にロイターに対して、今後数年で品質管理分野でのAIの役割を増大させたい意向を明らかにした。
2023年3月までに、厚木工場でのドラムユニットとトナーカートリッジの生産のフル自動化を目指しているのはプリンターメーカーのリコー<7752.T>だ。既にロボットがほとんどの工程で活躍しており、4月以降は技術者が自宅から遠隔監視を行っている。
リコーインダストリー経営管理本部の菅野和浩本部長は、問題が生じた場合の対処は現場でする必要があるものの「監視は在宅でも可能になった」と説明した。
武蔵精密工業は、製造現場の完全自動化をいつ実現するか明らかにしていないが、大塚社長は、AIは現地現物主義を脅かす存在ではなく、補完してくれると話す。
大塚氏は「AIには不良品を見つけられても、それがなぜ生じたかが分からない。人間にしかできないことは、たくさん残る。トヨタ生産方式に代表されるような原因の追究や改善に、もっと人間が関われるようにしたい」と強調した。
*情報を追加して再送しました。
(記者:田実直美、山崎牧子 取材協力:白木真紀、平田紀之)
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