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コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学

行動経済学で考える、コロナ対策・景気浮揚策・社会的距離戦略

BEHAVIORAL ECONOMICS

2020年5月28日(木)17時55分
ジョナサン・ハートリー(エコノミスト、米議会両院合同経済委員会・元上級政策顧問)

ClarkandCompany-iStock.

<国民への給付・補償はどのタイミングでやるのがいいか。社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)が「お買い得」と言えるのはなぜか。「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集の記事「ポストコロナを行動経済学で生き抜こう」から一部を抜粋>

※この記事は「コロナ禍での『資産運用』に役立つ行動経済学(3つのアドバイス)」、「消費者が思うより物価は高い(コロナ不況から家計を守る経済学)」の続きです。

消費マインドを上げるには繰り返しの給付が効果的

コロナ禍を受けて世界各国の政府はさまざまな景気浮揚策を検討してきた。イギリスをはじめとする欧州諸国やカナダなど多くの国では、企業が従業員に支払う給与の一定割合を政府が補助する制度が採用されている。アメリカでは、最大で給与の50%に相当する額を政府が肩代わりすることが決まった。
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景気浮揚策としてのカネの配り方が消費支出に最終的にどれくらいの影響を与えるかについても、行動経済学の知見から考えることができる。例えば2週間ごとに給与補塡を行うほうが、所得税の控除を1回やるよりも消費の押し上げには大きな効果がある。理由はノーベル経済学賞を受賞したセイラーらの言う「心の会計」だ。

つまり人は、繰り返し入ってくる収入を念頭に金の使い方を考える。だから一度きりの棚ぼた的収入よりも、これからも得られる収入(として考えられる金)のほうが、財布のひもは緩む傾向があるのだ。

コロナへの民間の対応を妨げる規制を洗い出せ

新型コロナウイルスの問題には政府だけでなく民間も時間を置かず効果的に対応しようとしているが、その邪魔になっている規制や制度がたくさんある。例えばアメリカでは、州ごとに定められた免許制度のせいで医師や看護師が州境を超えて働くことができない。一部ではそうした規制の緩和に向けた動きも出ているが、まだまだ十分とは言えない。

前述のセイラーやムライナタンといったシカゴ大学の研究者を含む行動経済学者たちは「ポーズレギュレーションズ・ドットコム」というウェブサイトを立ち上げた。これはコロナ対策のためにどんな規制を緩和すべきかの提案を、政策関係者や医療従事者に限らず幅広く受け付けるためのサイトだ。

例えば医療関係者からは、重要な医療機器について、特許を持つ会社が需要に応えられない場合には特許を一時的に停止すべきだとする意見が寄せられた。他の国々でも、同じような意見集約の場を設けるべきだろう。

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