最新記事

ポストコロナを生き抜く 日本への提言

パンデミック不況が日本経済にもたらした「貸し手不足」問題

GONE WITH CORONA

2020年5月1日(金)16時40分
リチャード・クー(野村総合研究所チーフエコノミスト)

中央銀行による大胆な資金供給が求められている CLIVE ROSE/GETTY IMAGES

<バブル崩壊後の課題が解決されないままだった日本。コロナ禍が日本に内在する多くの問題をあぶり出し、新たな現象も発生している。本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>

今回の新型コロナウイルスによるパンデミック不況は、日本に内在する多くの問題をあぶり出した。

2020050512issue_cover_200.pngまず経済面では、ここ数年間日本経済を牽引してきたインバウンドの観光客増とオリンピックに向けての期待が打ち破られ、政治面では法制度の不備で政府が全国的な医療危機に迅速に対応できないことが表面化し、外交面ではこれまでの国連至上主義の限界が露呈してしまった。

経済面を詳しく見ると、世界中がロックダウン(都市封鎖)に入るなかで、瞬間風速で見た各国のGDPは既に平時の水準を大幅に下回っている。しかも、航空や観光産業は収入の激減で死活問題に直面しており、各国の政府が大胆に支援しない限り、再起不能の打撃を被りかねない。

その意味では、日本政府による今回の108兆円といわれる経済政策が、被害を受けている家計や企業を直接支援する仕組みは評価できる。だが、今回も公平性の確保ということで制度設計に時間がかかり、しかもできた制度は使い勝手が悪いという問題が起きている。今回はウイルス相手の時間との戦いであり、公平性の確保よりも、実施のスピードが最優先されるべきで、3月下旬に同様の法案を通したアメリカでは既に数千万単位の人々が支援金を受け取っているのである。

法整備という点では、収入が激減した家計への支援や平等で確実なマスクの配布にはマイナンバーのような実名制を活用したシステムが必要だが、日本の同制度は使い勝手が悪く、コロナ危機に対応できていない。

例えば台湾では、国民皆保険のカードを薬局の端末に挿入することで、国民全員がマスクを日本円にして1枚18円で必ず週3枚購入できるシステムを導入した。また同国では、自宅隔離の規定に違反した者には日本円で360万円の罰金を科しており、これらの断固たる対策は国民の安全と安心向上に大きく貢献し、景気の維持を可能にした。

企業に残る借金への拒絶感

ところが日本の法体系では、罰則を設けること自体が困難なため、結果的に、緊急事態宣言も含めて人材や資金などの「戦力」を逐次投入する羽目に陥っている。そのため、貴重な時間と民間の手元資金が浪費され、断固たる対策が採られていれば持ちこたえ得る企業が、そうもいかなくなってきている。安倍晋三首相は憲法第9条の改正に熱心だが、今回のような国家危機を乗り切るために改正すべき法律は、ほかにもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中