最新記事

航空業界

新型コロナで激変する世界の航空業界、その未来は中国が決める

The Airline Industry Will Change Forever

2020年4月18日(土)13時00分
クライブ・アービング(航空ジャーナリスト)

実を言えば、航空会社も座席数の少ない機材で遠くまで直行便を飛ばしたほうが儲かる。大人数を乗せてハブ空港まで運んでも、そこから目的地までの移動を別な航空会社に奪われたら、一番おいしい部分の利益が失われてしまうからだ。

だからこそ、今は「座席数は少なくても遠くまで飛べる」航空機が求められている。そのニーズに応えるのがエアバスA321XLRだ。この新型機は従来機種より30%も燃費がよく、航続距離は最大8700キロメートルもある。

ジャンボ級は過去の遺物に

アメリカと中南米諸国の主要都市を結ぶ直行便を就航させたいアメリカの航空大手3社はA321XLRに飛び付き、合わせて270機を発注した。既に受注総数は450を超え、宿敵ボーイング737の5倍に達しているという。

アジアで言えば、A321XLRはシンガポール-シドニー、ホーチミン-ブリスベンなどの主要都市を結ぶ直行便に使える。北京からトルコのアンカラ、上海からインドのバンガロールへも直行できる。

A321XLRのような機材で各国の主要都市を結ぶ直行便が増えれば、大量の客をハブ空港まで運ぶジャンボ級ジェット機の出番はなくなる。今回のパンデミックで最初に就航が止まったのも、ジャンボ級のエアバスA380とボーイングのB747-400だった。

まだデビューから日の浅いエアバスA380はともかく、伝説のジャンボ機B747はもはや消えゆくのみ。より燃費のいいB777-9やA350に取って代わられるのは時間の問題だろう。

この宿命的な世代交代を加速させたのは新型コロナウイルスの感染拡大だが、そうでなくても今は長期にわたる気候変動への真摯な対応が問われている時代だ。大量の石油を消費し、二酸化炭素をまき散らしている航空業界も今までどおりではやっていけない。

経済活動の停滞や観光客の激減で航空業界は苦しい時期だが、地球温暖化を防ぐための対応も待ったなしだ。燃費を改善し、植物由来の燃料を混ぜるなどして二酸化炭素の排出を減らす目標は是が非でも達成しなければならない。

せめてもの救いは、そうした先端技術を用いた中・小型の新型機のほうが、企業にとっての収益性も高いという事実。A321XLRのもたらす効率性の「大躍進」は、その最初の一歩にすぎない。

エアバスもボーイングも、最終的に目指すのは化石燃料を使わずに飛ぶ未来の実現だ。今はまだ電池だけで大きな旅客機を飛ばすことはできないが、いずれは自動車同様、航空機も化石燃料と絶縁し、空を汚さずに飛べるようになるだろう。今のパンデミックがそうした変化の加速に役立つなら、まずは不幸中の幸いと言えるのかもしれない。

<本誌2020年4月21日号掲載>

【参考記事】アメリカから帰国した私が日本の大手航空会社の新型肺炎対策に絶句した訳
【参考記事】サプライチェーン中国依存の危うさを世界は認識せよ

20200421issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中