最新記事

航空業界

新型コロナで激変する世界の航空業界、その未来は中国が決める

The Airline Industry Will Change Forever

2020年4月18日(土)13時00分
クライブ・アービング(航空ジャーナリスト)

アメリカが保護主義に閉じ籠もれば世界の空は中国の思いのままに THOMAS PETER-REUTERS

<コロナショックで大打撃を受ける世界の航空路線図──保護主義に向かうアメリカを尻目に中国が空を牛耳る>

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が脅かすのは、地上に生きる人と企業の存亡だけではない。グローバル化を追い風に順調に業績を伸ばしてきた世界の航空業界も、激しい乱気流に巻き込まれている。

その衝撃の大きさを雄弁に物語る数字がある。この疫病のせいで、座席数にして週に2000万席を超える定期旅客便が運休や廃止に追い込まれているのだ。

壊滅的な打撃には違いないが、2001年9月11日の米同時多発テロ後の状況とは異なる。あのときはハイジャックされた旅客機が自爆テロの凶器と化したから、その後しばらくは誰もが飛行機に乗るのを怖がった。今回は違う。ひとたびパンデミックが収まれば、すぐにでも飛行機に乗りたい人がたくさんいる。ただしそうしたニーズにどう応えるかで、航空会社の生死は分かれる。

パンデミック後の空の旅、とりわけ国際便の在り方は決定的に変わりそうだ。そして新たな国際航空路線図で、大いに存在感を増すのは中国だろう。今でも中国は巨大なタコのような存在で、アジア各国に航空路線網を張り巡らすだけでなく、アジアと他の大陸を結ぶ路線網にも大きな影響力を持っている。

この10年で、中国では空の旅に対する需要が急速に高まった。現在では世界の航空旅客輸送の18%を中国人客が占めており、金額に換算すれば年間890億ドルに上る(ちなみに世界最大の市場はイギリスを含むEU圏でシェアは25%、金額ベースでは1690億ドルだ)。

かつての中国は規模のわりに小さく、そして隔絶された航空市場にすぎなかったが、あっという間に裕福な中産階級が増え、彼らの旺盛な海外旅行熱が中国を巨大市場へと変えた。今でこそ新型コロナウイルスのパンデミックで冷え切っているが、終息後に海外旅行需要が一段と増えるのは間違いない。

航空業界のデータバンクOAGのアナリスト、ジョン・グラントは言う。「アジアでは、どの国の航空会社も中国に乗り入れる路線を必要としている。日本も韓国もマレーシアもシンガポールも、みんな中国便に力を入れている。だから、これらの国が(中国への)渡航禁止を解除できると判断するまでは、アジアの市場全体がしぼんだままになる」

言い換えれば、これら諸国が中国便を再開すれば、アジアの航空市場は再び上昇気流に乗るはずだ。

そして中国政府は、その日に備えて他のどんな国よりも断固として有効な手を打てる立場にある。なにしろ空港も飛行機も、そして飛行機を飛ばす路線の許認可権限も、全て一手に握っているからだ。必要とあらば資金を投入して自国の航空会社を救済することもできる。

しかも中国政府は──ここが肝心なところだが──他国の航空会社の生命線を握ってもいる。国内主要都市への乗り入れをどこの航空会社に認めるかも、週に何便の運航を許可するかも、決めるのは中国側だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

インドネシア中銀、追加利下げ実施へ 景気支援=総裁

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、米株高でも上値追い限定 

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中