最新記事

日本社会

新型コロナウイルス感染阻止と経済活動、安倍政権が直面するジレンマ

2020年3月6日(金)12時24分

自粛期間、長期化なら景気の基調に変化

ただ、経済活動の自粛が長引けば、それに伴う景気下押し圧力が大きくなることは、東日本大震災後の消費動向など記憶に新しいところだ。きっかけは外的なショックでも、それによって需要の著しい低下や雇用情勢の悪化が生じる。

経済官庁幹部は「外出自粛によるサービス業への打撃が大きく、当初想定より景気は悪化している」として1─3月期はマイナス成長が避けられないとみている。

エコノミストの間でも1─3月期のマイナス成長はほぼコンセンサスだが、4─6月までマイナス成長となるか否かについては、感染拡大の終息時期にかかってくる。

前出の官庁幹部は、政府が瀬戸際とした2週間である程度終息が見えてくれば3月15日をめどに「終息に向かいつつある」と首相が宣言できると見通す。生産活動も3月半ばまでは在庫でしのぎ、中国での工場稼働率が上がるにつれて輸入も正常化し、挽回生産が期待できるとの読みがある。

しかし、感染拡大防止を重視するあまりに自粛期間が長引き、経済停滞が長期化する場合は、景気の基調も変わってくる可能性があるという。五輪中止という最悪の事態となれば、国民のマインドが相当落ち込み、消費はますます停滞していくと懸念する。

経済界・政治家の財政拡大要求

こうした中、財界や政治家から財政による景気刺激を求める声が高まっている。

経済同友会の桜田謙悟代表幹事は3日の会見で「景気の気を支えるという意味で、小出しではなく、過大と思われるくらいの支援を短期間、期限を決めて一気に行うことが大事だ」と強調。インパクトある財政出動を念頭に、テレワークなどの環境整備、ITシステム化への投資を積極的に促すような政策を打ち出すべきとしている。

自民党の岸田文雄政調会長も3日、安倍首相に必要に応じて補正予算を検討するよう求めた。世耕弘成参院幹事長は先月28日の定例会見で、20年度予算が成立すれば20年度予備費5000億円も活用できると強調。予備費で「足りない経済的インパクトがあれば迅速、機動的に対応する」と語っている。

ただ、熊野氏は「日本ではまだ感染拡大が抑制できる段階にもかかわらず、大げさな危機ととらえるとことで、財政の大判振る舞いをしたくてうずうずしている政治家のちょうどよい理由付けになってしまう」と危惧する。

日本以上に感染が拡大している韓国が4日発表した対策費は1兆円規模。中小企業融資に加え、感染者発見のGPS活用や隔離徹底と、診断強化にも重点を置いている。米議会下院が4日可決した追加予算案は総額9000億円。うち、3200億円以上がワクチンや治療薬の開発に、1000億円以上が医療施設の支援などに充てられる。

(取材協力:竹本能文 編集:石田仁志)

中川泉

[東京 6日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・新型コロナウイルス感染症はいつ、どう終息するのか
・韓国、新型肺炎の激震エンタメ界も BTSは20万人ライブ中止、ファンがとった行動は──
・イタリアが「欧州の武漢」に なぜ感染は急速に広がったのか


20200310issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、FRBの政治介

ワールド

ウクライナ、和平計画の「修正版」を近く米国に提示へ

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中