最新記事

ネット

アマゾンの法人税が楽天より驚異的に少ない理由とは? ネットの巨人に根付く「タダ乗り」精神

ベゾスが口にした「驚きの言葉」

「奇妙に聞こえるかもしれませんが、ネット書店をどこで始めるかというのは大変重要な問題でした。〈中略〉それは、人口の少ない州でないといけませんでした。ネット通販の場合、売上税(消費税)は、本社を置いている州の住民だけにかけられるからです。人口の多い、カリフォルニアやニューヨーク州で事業を始めるのは馬鹿げています。

〈中略〉私はまた、サンフランシスコの近くにある先住民の居留地にアマゾンの本社を置くことはできないか、という可能性も探りました。そうすれば、税金をまったく払わずに事業ができるからです。けれど、不幸なことに、この計画はカリフォルニア州当局が受け入れませんでした」

アメリカの売上税とは日本の消費税にあたる。両者の最大の違いは、日本の消費税が国税であるのに対し、アメリカの売上税が州や市などに払う地方税であることだ。ネット立ち上げの1990年代当時は、法律上、ネット企業が売上税を課税しなければならないのは、本社や物流センターなどがある一部の州だけでよかった。つまり、アマゾンの場合、ワシントン州民の利用者だけが、商品代金に売上税を載せた金額を支払うことになった。

ワシントン州の人口は589万人。アメリカで最も人口の多いカリフォルニア州の3387万人と比べると、5分の1の人口であり、アメリカの全人口である2億8000万人強と比べると、全体の約2%という取るに足らない数字だ。だから、ワシントン州を創業の地に選んだというのだ。(筆者注・いずれも2000年の国勢調査の数字)

ベゾスは創業時の1994年7月、《カダブラ社》として、ワシントン州シアトルを本社として法人登録をする。しかし、その後で社名をアマゾン・ドット・コムと変え、1996年6月に再登記するとき、アメリカの中でもタックス・ヘイブン(租税回避)の地として悪名高いデラウェア州を本社に選んでいる。会社の本社機能はワシントン州シアトルに置くが、税制などの法律で使われる本社の住所はデラウェア州となる。

本社をデラウェア州に置くなら、州の人口数の多寡は関係がなくなる。デラウェア州は今日まで、売上税を課税しなくていい数少ない州の1つなのだから。

先住民居留地の利用さえ辞さない

売上税の回避の考え方以上に驚くべきことは、ベゾスがインタビューの後半で語る部分である。

アマゾンを創業するのに、税金がかからないという理由で先住民居留地に本社を置こう、とベゾスは試みている。

正攻法のビジネスとは、大きくかけ離れた裏技、いや寝技である。なりふり構わぬ節税方法だ。先住民居留地のビジネスに税金がかからないのは、歴史的に差別されてきた先住民を雇うことに対する見返りだ。しかし、私の知る限り、ベゾスがアメリカ先住民だけを従業員としてアマゾンを創業するという事業計画を書いたという事実はない。だからこそ、カリフォルニア州政府がそのベゾスの提案を拒否したのだろう。

重要なことは、そんな奇策を弄してまで、ベゾスがアマゾン設立以前から、言い換えれば今のような国際的なIT企業になるはるか前から、租税回避に心血を注いできたという事実だ。

『潜入ルポ amazon帝国』
(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)



※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、相互関税の一部を90日間停止 対中は1

ワールド

米・ベトナム、貿易協定交渉開始で合意 非関税障壁な

ワールド

金融市場への影響を引き続き注視=米相互関税一時停止

ビジネス

日経平均が3万4000円を回復、米相互関税停止を好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中