最新記事

教育

倒産する大学の4つの特徴:地方、小規模、名称変更、そして...

2018年12月3日(月)10時25分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

そして、その対策として、大学生が地元に定着するための取り組みを行うほか、2014年12月に「大都市圏、なかんずく東京圏への学生集中の現状に鑑み、大都市圏、なかんずく東京圏の大学等における入学定員超過の適正化について資源配分の在り方等を検討」(前掲著P39)することを発表した。

すなわち、首都圏などの大都市部にある私立大学の定員超過を抑制するということである。これによって政府は2020 年までに地方における自県大学進学者の割合を平均 36%(2013 年度全国平均 32.9%)まで引き上げることを目標としている。

文部科学省が私立大学の定員超過を抑制へ

それでは、どのようにして大都市部の私立大学の定員超過を抑制するのか。

政府が私立大学に交付している補助金は定員割れの度合いに応じて減額されるが、これは定員割れだけではなく、定員超過に対しても同様の減額措置が取られることになっている。

現在、定員8000人以上の大規模大学の場合、定員超過率が120%以上になると補助金は交付されない。この交付停止の基準を、大都市部の大学に限って110~107%まで厳格化する方針を打ち出したのだ。

対象となるのは首都圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川)、関西圏(京都、大阪、兵庫)そして中部圏(愛知県)の私立大である(毎日新聞2015年2月22日朝刊より)。これによって三大都市圏における私立大学の定員超過を抑制し、その分の学生を地方大学に回すという算段である。

しかし、これは問題の本質に対する解と言えるであろうか。補助金という「外圧」による定員の数字合わせよりも、現在、日本の大学が抱えている多くの課題にこそ取り組むべきであろう。

すなわち、有名私立大学を除く大半の私立大学にみられる大学生の学力低下や、AO入試・推薦入試という名による事実上の無試験制度、そして、大学教員の質の向上や大学における教育・研究活動の質と量の向上である。

本来、これらの課題は都市部か地方かを問わず、大学の本質と役割という点で違いはないはずである。真に魅力のある大学であれば優秀な学生や教員が集まるものであり、そのような大学だけが「大学大倒産」の時代を生き延びるべきなのである。

最近では、大学倒産にからんだ話になると、「大学はビジネスだ」「金儲けができれば、どんな学部でもつくるべきだ」「受験生は何でもかき集めればよい」等と、およそ高等教育機関の責任者とは思えないような発言を耳にする。

企業でも、いい商品づくりができなければ、どんな大企業でも倒産する時代だ。大学の財産であり商品は大学教員であり、それを支えるのはすぐれたスタッフであり、大学を存続させるのはいい学生が集まり、大学教育を通じていい学生を社会に送り出すことだ。こうした大学における経営・教育・研究の改革を放棄した大学は「必ず」淘汰されていくことになるだろう。

[引用参考文献]五十音順
1)asahi.com 「母校が消える 学校法人、相次ぐ破綻」
2)MSN産経ニュース「神戸ファッション造形大廃校へ 定員確保が困難」
3)衆議院会議録情報 第009回国会 文部委員会 第3号
4)首相官邸 まち・ひと・しごと創生会議(第4回)資料2「まち・ひと・しごと創生総合戦略 (案)」
5)首相官邸 教育再生実行会議『「学び続ける」社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育の在り方について(第六次提言)』
6)日本私立学校振興・共済事業団『平成30(20184)年度私立大学・短期大学等入学志願動向』
7)日本経済新聞2012年4月30日『東京女学館大、16年3月閉校 ブランド力生かせず』
8)毎日jp 「三重中京大:短大ともに廃止 来年度から募集停止」
9)松野弘(2010)、『大学教授の資格』NTT出版
10)松野弘(2015)、『大学教授になるための戦略的勉強術』PHP研究所
11)文部科学省『大学設置基準』最終改正:平成二六年一一月一四日文部科学省令第三四号
12)文部科学省ホームページ「大学等の名称変更など」
13)読売新聞「開学当初から経営難、14年で閉学した大学」2013年3月16日

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、最高値更新 高市首相誕生

ワールド

ボリビア新大統領、IMFへの支援要請不可欠=市場関

ワールド

米豪首脳がレアアース協定に署名、日本関連含む 潜水

ワールド

カナダ、米中からの鉄鋼・アルミ一部輸入品への関税を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中