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労働者の限界生産性を忘れていないか──「日本的経営」再考

2018年5月21日(月)17時30分
松野 弘(千葉大学客員教授)

写真は本文と関係ありません kobbydagan-iStock.

<だれしも若い頃は「能力主義」を叫ぶが、年をとれば以前のようにエネルギッシュには働けなくなる。欧米型「成果主義」の導入に失敗してきた日本企業は、今こそ日本的経営のよさを見直すべきではないか>

景気後退期になると、必ず出てくる課題は雇用調整によるコストカットである。1980年代後半からのバブル経済崩壊後、終身雇用や年功序列(地位・給与ないし賃金)の問題が経営者側から提起され、社会問題となった。

企業にとって、人材は心臓ともいえる存在であるにもかかわらず、経営環境が悪化するとアメリカ型のコストカット、すなわち、人件費削減問題が登場してくる。

戦後、日本がここまで経済成長をし、社会発展を遂げてきたのは、技術イノベーションが主たる理由であるが、日本人の労働に対する倫理性・モラール(勤労意欲)の高さや、責任感もまたその理由である。こうした日本的経営の長所を軽視して、グローバル化への対応という名目のために、企業経営を効率性の論理だけで推進していいのだろうか。

これまで日本的経営の3つの要素として、(1)終身雇用、(2)年功序列、(3)企業別組合、が世界的にも注目されてきた。その中でも、グローバル化の波のターゲットとされてきているのが、(1)の終身雇用や(2)の年功序列、の問題である。

勤続年数が長く、経験も豊富な人材の待遇を改善していくというのは、会社にとってもメリットはあるはずだが、欧米流のマネジメントでは、短期間に利益をあげている人材が望ましいようだ。

ビジネス活動には波があり、景気変動の影響で企業が儲かったり、損をしたりするのが常である。ビジネスを動かしていくのは、人間の知恵と経験である。そうした考え方を捨象するのが、仕事の成果(顕在的成果)のみを評価対象とする「成果主義」や、「能力主義」(潜在的成果も評価の対象となる)の考え方である。

日本では「能力主義」の日本的改良が検討されてきたが、グローバル化の進展に伴い、欧米流の「成果主義」が前面に出てくるようになった。

経営者も従業員も運命共同体だったからこそ......

第二次世界大戦の敗戦(1945年)から日本が驚異的に復興できたのは、日本的経営の特質である、(1)日本人の勤勉精神、(2)日本的集団主義、(3)イノベーション(革新)への不断の努力等により、良質な商品を適切な価格で世界市場に販売してきたからだといわれている。

昭和30年代(1955~65年)には「安かろう、悪かろう」と散々、海外の消費者(とりわけ、アメリカ)から日本の商品は非難の対象となっていたが、そうした課題を克服し、今や「Made in Japan」は商品における「高品質」「高付加価値」の象徴といってもよいだろう。

それは日本人が、顧客満足(customer satisfaction)を実現すべく、研究開発のイノベーションを継続的に行い、QC(品質管理)を担保してきたからに他ならない。その基盤には、長期安定雇用という「終身雇用」、「年功序列」という日本的経営における従業員に対する公正、かつ、的確な評価システム等があったのである。

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