「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」とヤングは言った
そしてもちろんアイデアもそうだ。このように、知っているものがそこに存在するとき、わたしたちはそれが「ある」ことを感じる。わたしたちのなかの何かが認識する。でも、それを明確に説明しろと言われると困ってしまう。
試しにアイデアがどう定義してあるのか、辞書をのぞいてみよう。びっしりと説明してある。
「思考、知識などのように精神活動の生産物として心のなかに実在する、または実在する可能性のあるもの」
「最高のカテゴリーに属すもの。理性による完全かつ究極の産物」
「実在するものでは完全には表現できない、超越的な存在」
......失礼。かえって混乱させてしまったようだ。
ところが、周囲の人にアイデアの定義を尋ねてみると、もっとわかりやすい答えが集まった。南カリフォルニア大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校でわたしが同僚や受講生からもらった答えを紹介しよう。
「あまりにも当たり前のことなので、誰かに言われた瞬間、何で自分は思いつかなかったのだろう、と思うもの」
「アイデアは一つの状況のすべての面を集め、それをシンプルな形にまとめる。ばらばらになっていたすべてのひもの端を、一つのきれいな結び目にする。その結び目をアイデアと言う」
「普遍的に知られている、または認められているものが、まったく新しい、独自の、思いもおよばない方法で提示されているのに、何の抵抗もなくすっと受け入れられるもの」
「それまでの流れからは予想もつかない、新しいもの」
「物事を新しい観点から見せてくれる、ひらめき。それによって、別々のもののように見えていた二つの考えが一つの新しい概念になる」
「アイデアは、複雑なものをびっくりするほどシンプルに統合してしまう」
こうした定義(実際のところ、これらは「定義」というよりは「描写」なのだが、本質をとらえているから問題ないだろう)を読むと、「当たり前」「ひらめき」「統合」という言葉によって、とらえどころのなかったアイデアの概念がだいぶつかめてくる。
だがわたしが一番気に入っているのは、ジェームス・ウェブ・ヤングの説明だ。これは本書の土台にもなっている。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」
わたしがこの説明を特に気に入っているのには、二つの理由がある。第一に、ここにはアイデアを得る方法が明示されている。アイデアを手に入れるのは、新しい料理のレシピを作るようなものだと教えてくれているのだ。すでに知っている材料を、これまでとは違った方法で組み合わせるだけ。アイデアを得るというのは、こんなに単純なことなのだ。
単純というだけでなく、これは天才でなくてもできる作業だ。ロケットを開発する科学者である必要もなければノーベル賞受賞者である必要もない。国際的な画家や詩人、腕ききの広告マンでなくてもいい。ピュリッツァー賞受賞者や世界的に有名な発明家でなくても大丈夫なのだ。