中国企業のイノベーション志向を探る
調査では、それぞれの企業の文化について、「透明でフラット」「多様化している」「寛大」「前向き」「オープンで偏見がない」「リスクをとる」「集団的」「強力なヒエラルキーがある」といった各項目にどのくらい当てはまるか、自らスコアをつけてもらった。「寛大」は失敗を許容する文化があるかどうかを示す。「集団的」は、中国企業では一般的である集団指導体制がイノベーションに有利かどうかを評価するための項目。「強力なヒエラルキーがある」は、あるかどうかではなく(現実的には全調査対象企業にある)、企業がそれをイノベーションに好ましいと考えているかどうか知るために評価項目に含めた。
スコアは1点刻み10点満点とした。6点以上ならば、その文化的特性が自社のイノベーションにとって好ましいと回答者が考えていると推測できる。
調査結果によれば、もっとも好ましいと企業が考える文化的特性は「寛大」と「透明でフラット」の二つだった。「寛大」は中国文化の伝統にマッチする。年長者は年少者の面倒をみるものとされ、年長者は年少者の少々の失敗なら許容する。
もっとも好ましくないと彼らが考える文化的特性は、「リスクをとる」と「強力なヒエラルキーがある」だった。調査対象の中国企業では、リスクをとって変化することは奨励されていないようだ。ただし、彼らは階層的な権力分布が革新的なアイデアの孵化を妨げることは理解している。
ここでの調査結果は、国単位のデータと概ね合致していた。寛大であることはLTO(長期志向)の表われであり、リスクを冒すことはUAI(不確実性の回避指標)と関連する。さらに、ヒエラルキーが強いということは「PDI(権力の格差指標)が高い」ということだ。
国有企業と非国有企業の違いも際立っている。国有企業は「集団的」と「強力なヒエラルキーがある」において非国有企業より高いスコアをつけていた。「集団的」のスコアは、非国有企業より国有企業が平均して25%高い。一方、「前向き」と「オープンで偏見がない」に対して非国有企業は国有企業より24%高いスコアをつけた。「多様化している」については、非国有企業は国有企業より30%高いスコアをつけている。
「強力なヒエラルキーがある」ことと、「透明でない」ということには相関があると考えられる。そこで、「強力なヒエラルキーがある」のスコアと、満点である10点から「透明でフラット」のスコアを引いた数字(「透明でない」のスコアにあたる)の平均値をとる。これは、権力格差が大きいことが企業のイノベーションにどう影響するかを測る指標になる。計算結果は、国有企業で4.96、非国有企業は3.88だった。どちらも5以下なので、中国のどの企業にとっても、権力格差が大きいことはイノベーションの妨げになることがわかる。
長期志向は中国の伝統的な価値観
外国企業が中国企業とビジネスをしようとするときには、イノベーションにかかわる文化面の配慮を忘れてはならない。中国はイノベーション主導の経済を確立する途上にあるからだ。