最新記事

調査

中国企業のイノベーション志向を探る

2015年8月26日(水)16時30分
ヤン・シアオトン ※Dialogue Review Jun/Aug 2015より転載

 調査では、それぞれの企業の文化について、「透明でフラット」「多様化している」「寛大」「前向き」「オープンで偏見がない」「リスクをとる」「集団的」「強力なヒエラルキーがある」といった各項目にどのくらい当てはまるか、自らスコアをつけてもらった。「寛大」は失敗を許容する文化があるかどうかを示す。「集団的」は、中国企業では一般的である集団指導体制がイノベーションに有利かどうかを評価するための項目。「強力なヒエラルキーがある」は、あるかどうかではなく(現実的には全調査対象企業にある)、企業がそれをイノベーションに好ましいと考えているかどうか知るために評価項目に含めた。

 スコアは1点刻み10点満点とした。6点以上ならば、その文化的特性が自社のイノベーションにとって好ましいと回答者が考えていると推測できる。

 調査結果によれば、もっとも好ましいと企業が考える文化的特性は「寛大」と「透明でフラット」の二つだった。「寛大」は中国文化の伝統にマッチする。年長者は年少者の面倒をみるものとされ、年長者は年少者の少々の失敗なら許容する。

 もっとも好ましくないと彼らが考える文化的特性は、「リスクをとる」と「強力なヒエラルキーがある」だった。調査対象の中国企業では、リスクをとって変化することは奨励されていないようだ。ただし、彼らは階層的な権力分布が革新的なアイデアの孵化を妨げることは理解している。

 ここでの調査結果は、国単位のデータと概ね合致していた。寛大であることはLTO(長期志向)の表われであり、リスクを冒すことはUAI(不確実性の回避指標)と関連する。さらに、ヒエラルキーが強いということは「PDI(権力の格差指標)が高い」ということだ。

 国有企業と非国有企業の違いも際立っている。国有企業は「集団的」と「強力なヒエラルキーがある」において非国有企業より高いスコアをつけていた。「集団的」のスコアは、非国有企業より国有企業が平均して25%高い。一方、「前向き」と「オープンで偏見がない」に対して非国有企業は国有企業より24%高いスコアをつけた。「多様化している」については、非国有企業は国有企業より30%高いスコアをつけている。

「強力なヒエラルキーがある」ことと、「透明でない」ということには相関があると考えられる。そこで、「強力なヒエラルキーがある」のスコアと、満点である10点から「透明でフラット」のスコアを引いた数字(「透明でない」のスコアにあたる)の平均値をとる。これは、権力格差が大きいことが企業のイノベーションにどう影響するかを測る指標になる。計算結果は、国有企業で4.96、非国有企業は3.88だった。どちらも5以下なので、中国のどの企業にとっても、権力格差が大きいことはイノベーションの妨げになることがわかる。

長期志向は中国の伝統的な価値観

 外国企業が中国企業とビジネスをしようとするときには、イノベーションにかかわる文化面の配慮を忘れてはならない。中国はイノベーション主導の経済を確立する途上にあるからだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

インタビュー:戦略投資、次期中計で倍増6000億円

ワールド

トランプ氏、イスラエル首相と来週会談 ホワイトハウ

ビジネス

ロビンフッド、EU利用者が米国株を取引できるトーク

ワールド

トランプ氏、シリア制裁解除で大統領令 テロ支援国家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中