最新記事

消費税

欧州の失敗に目をつぶる「軽減税率」論のうさんくささ

2015年4月9日(木)13時09分
岩本沙弓(経済評論家)

 こうした不公平税制への対症療法として、60年代から日本の消費税に当たる付加価値税を導入している欧州では、当初から軽減税率を採用してきました。40年以上にわたる壮大な社会実験の成果はどうだったのか。結論として、軽減税率の初期の導入国の1つであるドイツを中心に軽減税率の効果が疑問視されており、見直しの機運が高まっています。

 その筆頭がマインツ大学財政研究所長のロルフ・ペッフェコーフェン氏です。連邦財務省学術顧問団のメンバーでもあり、いわば財政政策の権威。そうした識者を筆頭に軽減税率を疑問視する声があがっています。

 同氏によれば、軽減税率が本来「消費者に有益であるべきなのに、大半の場合はそうした保証はない」と一刀両断です。軽減税率で結局得をするのは食料品費の金額の大きい高所得者であることはもちろん、同氏は欧州の実態をもとに、軽減税率によってモノの値段がそんなにうまい具合には下がらないとしています。

 実際の物流の現場を考えてみましょう。例えば消費税10%で食料品に軽減税率5%が適用されたとしても、ミネラルウォーターのペットボトルの値段は5%安くはなりません。軽減税率が適用されるのはあくまでも中身の水のみ。水の原価はボトル全体のわずか2〜3%にすぎません。水の原価に軽減税率が適用されたところで、全体の価格に埋もれてしまうだけ。食糧品そのものの税率が軽減税率で下がったとしても、その他、原価の大部分を占める物流コスト、パッケージ代、生産や販売時の電気代などに消費税はかかります。昨今のように、円安による原材料費の価格高騰が続けば価格が安くなるどころか、高くなることもあり得ます。

 さらに同氏は、消費者の利益をうたった軽減税率が実際には特定企業への優遇策、いわば「補助金」になりかねない、という驚きの指摘をしています。企業が消費税・付加価値税を納税する際、個別の取引ごとに細かく納税額を算出するわけではありません。

 その企業の(売上×消費税率10%)―(仕入れ×消費税率10%)で計算されます。

 企業が製品を販売した際に預かった消費税の総額から、仕入れの際に既に支払った消費税額の総額を相殺することで納税額が決定します。売上100に対して仕入れ80であれば、(100×10%)―(80×10%)=2となり、消費税の納税額は2となります。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRBが金利据え置き、2理事が反対 利下げ再開時期

ビジネス

米FOMC声明全文

ワールド

米財務長官、次期FRB議長人選巡りトランプ氏と時間
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    またTACOった...トランプのグリーンランド武力併合案…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中