最新記事

貿易

得か? 損か?日本を惑わすTPP恐怖症

2013年4月24日(水)18時03分
ピーター・ペトリ(米ブランダイス大学教授)
マイケル・プラマー(米ジョンズ・ホプキンズ大学教授)

 TPPに参加するとアメリカのように医療保険制度の民営化が進むという懸念もよく聞く。だがアメリカの交渉担当者らが言うように、この懸念は事実無根だ。もっとも、TPPによって保険が適用される医薬品を選択する際の透明性が高まり、保険業界の競争が激しくなる可能性はあるかもしれない。

 だがTPPが日本の国民皆保険制度に変化を迫ることはないだろう。中には、TPP反対派はTPPそのものに反対しているのではなく、現在の制度内で医療や保険の選択の幅が広がることに反対しているのだと批判する声もある。

 TPPではなく16カ国が参加を目指すRCEPのほうが、日本にとっては大きな利益になるという主張もある。われわれの計算ではTPPが与える恩恵のほうが大きいが、どちらかを選ぶ必要はない。TPPとRCEPの両方を並行して進めれば、日本はGDPの4%に相当する所得増が見込めるだろう。

 その意味で、TPPはRCEPのほか中国や韓国やヨーロッパとの2国間貿易協定も促進する大きな貿易戦略の一部を成す。

 理想的なのは、日本がどの交渉でもTPPと同じようにレベルの高いルールを唱えて、ルールに基づく貿易体制を構築するよう交渉相手に促すことだ。アメリカも幅広い政策を取って、中国をはじめとする国々との貿易交渉に力を入れるべきだ。

 21世紀の貿易ルールはグローバルな交渉で決めるのが一番いい。だが実際にそれをやるのはほぼ不可能であることは、これまでの経験で嫌というほど分かっている。それだけに新しいメガ貿易交渉は、この分野で大きな進歩を実現するチャンスだ。

 日本は今、各地で桜が満開となり春本番を迎えつつある。経済ニュースは久しく聞かなかった明るさを取り戻し、安倍首相は幅広い支持を集めている。

 リーダーシップと譲歩をいとわぬ姿勢、そして変革の恩恵を受けられない少数の人々への心配りがあれば、日本経済は本格的な再生を果たせるはずだ。

[2013年4月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ロッキード、アラバマ州に極超音速兵器施設を新設

ワールド

中国経済は苦戦、「領土拡大」より国民生活に注力すべ

ビジネス

成長率の範囲に債務残高伸び抑え市場の信認確保したい

ビジネス

前場の日経平均は続伸、700円超高 AI関連が引き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中