最新記事

不良債権

中国金融が抱える時限爆弾

2012年10月18日(木)14時56分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケンナ大学教授)

 09〜10年の金融バブルに踊ったのは、地方政府だけではない。裸で海水浴をしていた人が、引き潮になってその姿をさらすように、中国経済の成長が減速化するに従い、バブルの加担者がぞろぞろと姿を現している。

 例えば、借り入れに過度に依存してプロジェクトを進めてきた不動産開発業者。彼らは今や破産寸前で生き残りに必死だ。中国のメディアでは、破綻した不動産開発業者の自殺が何件か報じられている。

 破産して行方不明になったビジネスマンもいる。香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストが今年5月に報じたところによると、昨年だけで莫大な債務返済を逃れるために行方をくらませた企業経営者は47人もいたという。

銀行が秘かに行う闇融資

 不動産開発の次に破綻の波がやって来るのは製造業だ。国有企業か民間企業かを問わず、製造業は恐ろしく利幅が小さい。その上設備過剰という構造的欠陥を抱えているから、景気が悪化すれば全産業で在庫と返品が急増するだろう。

 だが在庫を割引価格で処分すれば、わずかな利益が吹き飛んでしまう。景気のいいときに借りた資金は、間違いなく返済できなくなる。

 空前の金融危機が最大の打撃を与えそうなのは、中国の闇融資システムだ。中国の銀行は預金業務から得られる利益が乏しく(預金利率が規制されているため)、他行との預金獲得競争も厳しい。そこでここ数年、複雑で無規制の闇金融が大きな成長を遂げてきた。

 典型的な例として、投資家は預金金利よりも高利回りの「資産管理商品」と呼ばれる金融商品を勧められる。規制当局の監視の目を逃れるため、その取引は銀行の帳簿に記載されない。

 格付け会社フィッチレーティングス(中国)のシニアディレクターであるシャーリーン・チューによれば、今年6月末の時点で、中国における資産管理商品への投資残高は計10兆4000億元に上る。銀行への預金総額の11・5%に相当する規模だ。

 銀行は資産管理商品で集めた資金を、「オモテ」の金融システムでは融資を断られる企業や不動産開発業者に貸し付けることが多い。こうした借り手は信用力が低い(返済能力が低いと見なされる)から、高い返済利率を適用される。

 そのぶん銀行側にとってはリターンが大きいが、貸し倒れリスクも大きい。資産管理商品絡みの焦げ付き融資がどの程度に達するかは推測の域を出ないが、10%と控えめに見積もっても、銀行側の損失は1兆元に上る。

 闇融資には別の機能もある。政府の規則では明確に禁じられている融資先や活動に資金を供給することだ。過去2年ほど、国務院は不動産バブルを抑制するため、不動産開発業者に対する銀行融資を規制してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流

ワールド

防衛省、川重を2カ月半指名停止 潜水艦エンジンで検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中