サウジ増産でも1バレル150ドルの恐怖
原油価格の高騰を食い止めるためにサウジアラビアが増産を発表したが、既に生産量はほぼ限界に達しているとの見方も
真の実力は? 米石油業界の大物ブーン・ピケンズは、サウジアラビアには日量1200万バレルの生産能力はないと指摘する Ali Jarekji-Reuters
中東各国に政情不安が広がり、原油の供給不足への懸念は募る一方。そんな中で世界最大の産油国サウジアラビアは2月24日、原油の増産を発表して市場を一安心させた。
ところが翌日、テキサス州の石油業界の大物ブーン・ピケンズ(82)が、サウジアラビアには十分な余剰生産能力がないかもしれないと指摘した。
日量130万バレルの生産量を誇るリビアでは、カダフィ政権打倒の機運が高まり、原油の供給はストップ状態。ロイター通信によれば、その不足を補うために、サウジアラビアはすでに原油生産量を一日当たり70万バレル増の900万バレル超に引き上げているが、当局はさらに1200万バレルまで増産できると主張している。
これに対して、「1200万バレルの生産能力はないと思う」と、ピケンズは語る。「1000万バレルでも驚きだ」
油田の老朽化で増産に対応できず
ピケンズの指摘が正しければ、サウジアラビアの生産量はすでに限界に近いレベルまで達していることになる。「リビアの減産を補えるのはサウジアラビアだけだ。サウジアラビアにすべての命運を託している事態は異常だ」
「仮にアルジェリアやバーレーン(の政情不安)によって生産量が200万バレルほど減ったら、原油価格は1バレル当たり150ドルに高騰することもあり得る。1バレル当たり130ドルでアメリカのGNP(国民総生産)のうち経済危機以降に増加した分は吹き飛び、180ドルになれば経済危機に逆戻りだ」
先週には、北海ブレント原油の先物価格が2年半ぶりの高値となる119ドル台を記録した(その後はサウジアラビアの増産発表を受けて、112ドル以下に下がった)。
原油価格の安定化に乗り出したのはサウジアラビアだけではない。主な石油消費国でつくる国際エネルギー機関(IEA)も、大規模な供給不足に備えて加盟国に16億バレルの備蓄があることを強調した。ただし、原油価格を安定させるために備蓄を利用することに警告を鳴らす専門家もいる。
ピケンズがサウジアラビアの余剰生産能力に疑念を呈するのは、経済危機に先立って原油価格が異例の高値を記録した際に、老朽化した油田が増産に対応できなかったためだ。ただし、情報公開が進んでいないため、サウジアラビアの内情を正確に言い当てるのは困難だ。「埋蔵量の査定が認められないので、正確な産油量を知るのは不可能だ」(CIAワールドファクトブックによれば、サウジアラビアの09年の生産量は一日当たり推定976万バレル)。